第57話
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―――私達夫婦にはかつて娘が一人いました。もう7年以上前のことです。」
「あ………」
「その……いたというのは、やはり………」
「はい、不幸な事故で……いえ―――事故ではありませんね。あの子は………私達が殺したようなものだったんです。」
エリィに尋ねられたハロルドは答えかけたがすぐに言い直した。
「え………!?」
「そいつは………」
ハロルドの言葉を聞いたティオは声を上げ、ランディは目を細めた。そしてハロルドは語り始めた。
「―――8年前。駆け出しの貿易商だった私は拡大するクロスベルの貿易市場で何とか勝ち残ることに必死でした。その結果、共和国方面の危険な相場に手を出してしまい………多額の債務を負う事になったんです。幼い娘を連れながらの逃亡生活………逃げども逃げども債権者に追われ、私達に安住の地はありませんでした。このままでは悪名高いマフィアが出張ってきてしまうかもしれない―――それを恐れた私達は娘を旧い友人の所に預けました。共和国に住む、信頼できる友人です。全て借金を片付けて………完全に身綺麗になったところで娘を迎えに来るつもりだったんです。―――幸い、頼りになる先生の助言で私達は債務を整理する事ができました。コネやツテを生かして事業を建て直し、死にものぐるいで働いて………何とか1年で、借金の全額を返済することに成功したんです。これでやっと娘に会える………また一家人で暮らすことができる………そう思って……娘を預けた友人の元を訪ねたら………―――不審火、だったそうです。その頃、組織だった放火強盗事件が共和国方面で頻発していたらしく………私の友人宅も、その被害に遭いました。友人宅は郊外にあったため、当局による発見も遅れて………そして………預けていた私達の娘もそれに巻き込まれていました………私達は………半狂乱になって娘を捜しました。ですが………遺体の状況はどれも酷く結局、家にいた全員が亡くなったという検視結果しか伝えられませんでした。私達の娘は………何物にも替えがたい大切な宝物は永遠に失われてしまっていたんです。もう………私達には絶望しか残りませんでした。……あの子を死の運命に追いやりながら何のために生きているのかもわからず………このまま夫婦2人で心中しようかとまで考えましたが………―――そんな時に、わかったんです。妻がコリンを………あの子の弟を身籠っていることが。現金なもので、それがわかってから私達は生きる気力を取り戻しました。2度と失敗しないような手堅く誠実な商売だけを心掛けて………そうしてコリンが生まれ……私達は徐々に立ち直っていきました。――ーですがその間、私達は目を逸らし続けていたんです。自分達の不甲斐なさのせいで娘を亡くしてしまった痛みから………私達が犯してしまった罪から……」
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