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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百十一話 シャンタウ星域の会戦 (その3)
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は転換性ヒステリーによる神経性盲目なのだという。

わがまま一杯に育って自我が異常拡大した幼児に見られる症状らしい。冗談だと思ったが、ヤマムラ軍医少佐は大真面目だった。同盟の作戦参謀が小児性ヒステリーとは……。

ヴァレンシュタインが知ったらどうするだろう。多分信じないだろう、私は目の前で見ても未だ信じられない。こんな馬鹿げた事が本当に有るのか?

もうたくさんだった。小児性ヒステリーの参謀と無責任な総司令官、それに支持率向上を狙う無責任な政治家、こいつらが三千万将兵を死地に追いやろうとしている。直ちに撤退させなければならない……。


宇宙暦796年8月19日   2:30 第十三艦隊旗艦ヒューベリオン ヤン・ウェンリー


総司令部から撤退命令が届いたのは味方の左翼がいいかげん叩きのめされた後だった。撤退命令も“左翼に構わず撤退しろ”と言う物で左翼が全滅するのを前提とした命令だった。無残な事になった。左翼が全滅すればその後は我々の番になる。その前に撤退しなければならない。

退却するにしても第十三艦隊だけでは無理だ。どうしても第五、第十、第十二の力が要る。四個艦隊が一つになって撤退しなければならない。ばらばらに撤退すれば敵に追撃を受け悲惨な結果になるだろう。

「第二艦隊、旗艦パトロクロス、爆発しました」
オペレータの声が艦橋に流れる。パエッタ中将が戦死した。第二艦隊は統一した指揮はもう執れないだろう、後は敵の思うままだ……。

ビュコック提督との間に通信を開いた。スクリーンに映るビュコック提督の顔には疲労が強く出ている。
「ビュコック提督、撤退の指揮をお願いします」
「それは良いがどうやって撤退する? 容易に退かせてくれる相手ではないが」

「四個艦隊で敵を押し込みましょう」
「押し込む? 突破を目指すのか?」
「そうです。それが出来れば左翼部隊も救えます」


帝国暦 487年8月19日  3:00 帝国軍 クレメンツ艦隊旗艦ビフレスト アルベルト・クレメンツ


「敵、前進してきます!」
「なに!」
「正面だけではありません! 敵の右翼全面攻勢に出ました!」
「馬鹿な、この期に及んで何を考えている」

オペレータの悲鳴のような声と共に敵が攻勢をかけてきた。第五艦隊だけではない、敵の右翼全てが攻勢をかけてきた。すさまじい勢いだ。撤退前の牽制の攻撃ではない。

こちらを潰してから撤退しようとしている、いや、突破して味方の後背を衝こうとでも考えているのか。まだ勝つ気でいるのか。

ここはミュラー、メルカッツ提督と共に敵の攻勢を支える。此処を耐えれば味方の勝ちだ。もう直ぐ敵の後背にヴァレンシュタイン司令長官率いる別働隊が来るはずだ。そうなれば今攻勢をかけている敵も崩れざるを得な
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