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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百十話 シャンタウ星域の会戦 (その2)
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ザーンの情報を鵜呑みにしたのかもしれない。シュムーデ提督もマクシミリアンも良い仕事をしてくれた。それとも帝国軍などたいした事は無いと高を括ったか。
敵はまだこちらの動きに気付いていない。完全に無防備な背中を見せている。こちらの艦隊は横一列の横陣を組んでいる。左からビッテンフェルト、ファーレンハイト、俺、ケンプ、レンネンカンプ。
ビッテンフェルト、ファーレンハイト、攻撃力の強すぎる男達が左翼に揃っている。ルッツ、ケスラー達と敵を挟撃し、そのまま網を手繰り上げるように右翼へ包囲を伸ばす。それ程難しいことではない。楽に同盟軍を殲滅できるだろう。
「参謀長、全艦に命令を」
「は? しかし、それでは敵に気付かれてしまいますが?」
生真面目に心配するワルトハイム参謀長の顔が可笑しかった。思わず笑いが漏れる。
「大丈夫です。この時点で気付かれても敵には打つ手がありません。反って混乱するだけでしょう」
「はっ。では何と」
「最大戦速で突入し敵の左翼を攻撃せよと……それから……」
「? それから?」
「殲滅せよ、司令長官は卿らの武勲を望まず、ただ敵の殲滅を願う、と」
「!」
「どうしました?」
「はっ、直ちに命令します」
ワルトハイム参謀長は俺が過激な事を言うので驚いたようだ。一瞬絶句していた……。この一戦で全てを決める。いずれ来る内乱に手出しはさせない、帝国の手で宇宙を統一する。ここから全てが始まるのだ……。
「オペレータ、全艦に命令、最大戦速で突入し敵の左翼を攻撃せよ、殲滅せよ、司令長官は卿らの武勲を望まず、ただ敵の殲滅を願う」
「はっ」
こちらに気付いたのだろう。戦術コンピュータの擬似戦場モデルに映る同盟軍の動きに乱れが起きた。だがもう遅い、ここで殲滅する。
帝国暦 487年8月19日 2:00 帝国軍ビッテンフェルト旗艦ケーニヒスティーゲル フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト
「閣下、総旗艦ロキより入電」
「うむ」
「最大戦速で突入し敵の左翼を攻撃せよ、殲滅せよ、司令長官は卿らの武勲を望まず、ただ敵の殲滅を願う」
「!」
”司令長官は卿らの武勲を望まず、ただ敵の殲滅を願う”常に穏やかな表情を浮かべている司令長官には似つかわしくない言葉だ。それだけ本気だという事だろう。
グレーブナー、オイゲン、ディルクセンは顔を見合わせ、司令長官の電文の激しさに驚いている。俺はむしろ普段穏やかだからこそ、戦場では誰よりも厳しくなれるのではないかと思うのだが。
「全艦に命令、殲滅せよ! 一隻たりとも帝国から逃がすな!」
宇宙暦796年8月19日 2:00 第二艦隊旗艦パトロクロス
パエッタ
「後背に敵の大軍!」
「馬鹿な、何の話だ!」
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