13話 楯無戦
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分の専用機を制作するために整備室にやってきた更識 簪はアリーナの様子を映し出しているモニターを見ていた。
そのアリーナに映し出されている2機のIS。片方の黒いISはかつて自分の専用機の候補に上がったISに似ており、もう片方のISはよく知っているものだ。いや、知りすぎているものだった。
「―――楯無、姉さん……っ?」
簪にとっての憧れであり、どれだけ努力しても届くことのない絶対的な人、眉目秀麗、完全無欠の人。
そんな人が今、アリーナで誰かと試合していた。対戦相手は直接話したことはなかったが、名前と顔は知っている。世界2人目の男性操縦者。クラスでもよく話題になっている操縦者。曰く、
―――たかがゲームの世界王者。
―――女に喧嘩を売る身の程知らずの年下のガキ。
―――生意気で粗暴、観客席に武器を投げつける乱暴な馬鹿。
その評価については微塵も興味ないから簪にとってはどうでもいいものだった。正確には目の前の試合を見て、自分もそんな評価を下せるはずがなかったからだ。
「姉さんが……本気で戦ってる……?」
昔見た、一切の容赦を廃絶した冷酷な戦い方。自分では超えることの出来ない冷水のような戦い方を見たのはいつだったか。相手の心を恐怖や絶望に塗り替える戦い。
何をやっても届かない。
何をやっても無駄だと思わされる。
何をやってもその全身を纏う冷水を振り払うことは出来ない。
少なくとも自分は振り切ることは出来なかった。
そしてその戦い方に対して怯えを見せようともせずに果敢に挑んでいる1人の少年。
鬼一が恐怖や絶望を抱いていないはずはない。戦って身体を張っている鬼一は簪よりもある意味では簪よりも理解していた。が、鬼一の心は知っている。一度でも恐怖に屈してしまえば二度と立ち上がることは出来ないことを。
恐怖に屈してしまえば楽になれるというのも鬼一は知っている。だけど、彼はあくまでもその恐怖から目を逸らさない。逸らすわけには行かないからだ。勝つためにはそれが何よりも大切なことだということを鬼一の全てが理解している。
無意識の内に簪は自分の掌を握りしめていた。それこそ爪が掌に突き刺さり、痛みだけではなく血を滲ませるほどにだ。
鈍い痛みに気づいた簪は慌てて自分のハンカチで傷口を押さえる。
簪自身、自分の中から出てきたその感情が何なのかは分からなかった。
―――あの人に、勝てるわけがない……。ISに乗り始めたばかりの初心者があの人に敵うはずが……。
勝てるわけがない。簪はモニターを見ながらそんなことを考えた。少なくとも自分の知る限り絶対を教えてくれた唯一の人間に勝てるわけがない。
果たして簪は気付いているだろうか? 今、自分が目
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