12話 日常回
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も、是非はともかくとして必ず何らかの『信念』や『理念』を持ち合わせている。そしてその『信念』や『理念』、もしくは『矜持』に沿って理性が思考を生み出し、行動へと至らせるのだ。
それを知っている楯無からすれば、今の鬼一はそんなものを持っていないように見える。
楯無の手からは衣服を通して鬼一の体温が感じられるはずなのだが、今の鬼一には体温が感じられなかった。
「鬼一くん……?」
不安そうな声色で楯無は鬼一に声をかけた。
その声で初めて鬼一は楯無のことを気づいたのか、少しずつ瞳に光が戻ってくる。確かな力を秘めた光。
「……たっちゃん先輩?」
楯無が聞きなれたその声に楯無は安堵した。いつもの鬼一だ。だが、明らかにおかしかった。
「……?」
キョロキョロと周りに視線を彷徨わせる鬼一。どうして自分がここにいるか理解していないみたいだ。そして楯無と視線が合う。
楯無が声をかける前に鬼一の顔が赤くなる。
「……たっちゃん先輩!?」
ようやく状況を飲み込めた鬼一は勢いよく立ち上がり、壁に背中をぶつける。気がついたら突然楯無がいたのだ。心構えも何も出来ていなかったのにいつの間にか視界にいた楯無に対して、鬼一は本音の言葉が頭に駆け巡っていた。
そんな鬼一に楯無は苦笑する。先ほどの鬼一と今の鬼一のあまりの違いに困惑してはいたが。しかし、一夏戦とその後の様子を知っている楯無からすればその驚きを顔に表すことはなかった。
「やあやあ、そのたっちゃん先輩ですよ〜」
ニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべたままにじり寄る楯無。
その行動に鬼一は冷や汗を流し、楯無を食い止める。
「そ、そうだたっちゃん先輩! もうすぐ模擬戦の時間、準備をするのでまた後でっ!」
慌てふためいた鬼一は走り出して楯無の前から立ち去る。
鬼一がいなくなり、一人になった楯無。
「……あれは……」
異質な存在を目にし楯無は1人呟いた。
その表情は疑念に染まっている。
しばらく足を止めていた楯無だったが、鬼一との約束を果たすためにアリーナへ足を進めた。
その足音は普段に比べて、僅かに重いものであったが。
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