12話 日常回
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がいた頃だ―――。
「……あっ、ぐぅ!?」
瞬間、立っていられなくなるほどの激痛が鬼一の頭を襲った。膝が折れ、地面に左膝を打ち付けてしまう。倒れてしまいそうになるがその前に左手が壁につく。打ち付けた痛みが気にならないほどの頭痛である。
まるでこの痛みは『思い出してならないもの』、と本能が拒否しているようであった。様々な人格の思考が脳内を駆け巡り、一瞬で消失した。
砂嵐のようなノイズが脳内を埋め尽くす。何も考えられなくなる。
ノイズの間に見える何処かの景色。
―――大小様々な機材が置かれた場所。
―――その機材の真ん中に置かれているパワードスーツ。
―――パワードスーツに接続されていたケーブルや機材は全て引きちぎられ、壊されていた。
―――パワードスーツの搭乗者の身体からは煙が立ち上っている。
―――その近くに倒れている2人の人影。
―――2人を中心に広がっている赤い水溜り。
「……あああああぁあぁぁあっ」
―――戦いをどこまでも重いものとして、尊いものとして扱う表の人格が。
―――勝利を得るために人を傷つけることに、壊すことに、何も感じない人格が。
―――自分を一つの歯車として、月夜 鬼一に勝利の2文字を与えることに特化された人格が。
ぐちゃぐちゃになる。
視界が歪み始める。
平衡感覚が狂い始め上下左右が分からなくなる。
「……『ボク』は……」
一体それは誰だったか。
静かに開かれた目には何も映していなかった。何も、宿っていなかった。
「……鬼一くんっ!?」
鬼一の背後から楯無の張り詰めた呼びかけが投げかけられる。楯無は通路の奥から駆け足で鬼一に駆け寄り、顔を覗き込んだ。そしてその表情を見て楯無は言葉を失う。鬼一の様々な顔を見てきたが、その表情は明らかに異質なものだった。
空虚、というのはこういうことを言うんじゃないだろうか? 楯無はそう感じた。
虫か、なにか無機物なものでも見ているような表情。意志や理性といったものが抜け落ちている。本当に同じ人だとは思えなかった。
楯無はロシア国家代表という表の顔を持っている。
だがそれはあくまでも表の顔だ。彼女はロシア国家代表であると同時に表には決して出てこない、暗部に対する暗部組織『更識家』の現当主でもある。彼女の名前の『楯無』は更識家当主が代々襲名する名前だ。
彼女は対暗部用組織の当主として、公にはできない様々な『闇』を見てきた。血が流れることなど珍しいことでもなかったし、その過程で様々な人間も見てきた。
だが目の前にいる少年は、裏表を見てきた楯無にとっても理外の生き物だと感じた。どんな人間に
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