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或る短かな後日談
彼女達の結末
幕間 三
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く、自身の足音のみが響く。そんな、誰も居ない廊下へ。

 アリスは、足を踏み出した。



 研究施設に響く叫び声。耳障りに軋む拘束具。
 自身のESP能力の拡張訓練。更に加わえられた実験。それ等は全て、アリス自身が望んだことで。
 被験体自らの志願、跳ね除けられても何等不自然では無いその申し出も、自身等の行く末、その結末を伝えられた者達にとって……元々。国を守るために自身の肉体と精神を提供した彼女の言葉であれば、尚更。半ば感情論、縋る思いを以って受け入れ。結果、これまでに行われてきたものを遥かに超える試みが、彼女の体と、その精神を蝕んでいき。

 痛みに叫びもした。恐怖に涙を零しもした。食い縛った歯、歯茎から溢れる血。震えを収めんと抱きしめた身体は、無意識に立てた爪で浅く抉れて、掻き毟った髪、増える傷。手術痕、全身に繋げられた、管。

 けれど。それでも。苦言は一つたりとも漏らさなかった。恨みの言葉も無かった。中止を求める声も、後悔の言葉も。助けを求めて手を伸ばすことさえも無かった。只々彼女は、自身の見た先、受け入れ難いその未来を。只々睨み、見据え続けて。
 その様は。実験を行う研究員達、彼等、彼女等の心を抉って。中止を求める声は、後悔の声は。救い出さんと伸ばした手は。しかし、アリスは。小さな笑みを浮かべながらも跳ね除けて。
 彼女は力を蓄えてゆく。兵器として完成してゆく。それと共に、彼女の睡眠時間は伸びていった。半ば失神、気絶に近いそれは、自我の休眠。ESPを扱う者に必要な、拡大した自我領域の縮小、媒体の休息。実験と休息、そして更なる手術を繰り返す日々。そんな、中で。

「……アリス、起きてる?」

 彼女の部屋に、一人。訪れる少女の姿があって。

「……また、来てくれたんだ。大丈夫だよ、少し、眠たいだけ」
「……そう。なら、少しだけ」

 アリスの部屋、白い扉。其処に、背を預けて。金髪の少女、軍服の少女。彼女は、言葉を紡ぎ始める。
 彼女の部屋には現在、鍵が掛けられていて。入れるのは、限られた職員のみ。面会を希望するのが他でもないアリスであるとなれば、申請すれば許可は降りるだろう。それでもこうして扉越しに語り合うのは、アリスがそれを拒んだからだった。今の自分は、随分と酷い姿だから。後悔はしていないけれど、それでも見せたいものではないから。その言葉に従い、彼女は。アリスの部屋を訪れる時は、常に扉に重みを預けた。

「……アリスが来れなくなってから、あの子が寂しそうにしてるよ。私じゃ話相手になれないから……でも、なるべく一緒に居てあげてる」
「……そっ、か。ありがとう。……いつか、状況が、安定したら……あの子とも、ふつ、うに……話が出来るようになるのかな」

 アリスの見た夢。その未来を覆せたなら。
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