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暴れん坊な姫様と傭兵(肉盾)
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改まってエルザ姫は自分を呼ぶが、反射的に訂正を返した。

「いいんだよ、呼ぶの面倒だし」
「(ですよね〜…そんな予感はしてました。 シクシク…)」

 姫様の中では…バッテン呼びの定着は、面倒の一言で決まっているらしい。

「いいか、バッテン」
「あ、はい」

 そして再度、エルザ姫は改まって僕の名前(仮)を呼んだ。

「お前は俺様に相応しい盾だ。 長〜く使ってやるつもりだから、今日からよろしくな」
「よ、よろしくお願いします…」

 ―――あなたは姫陛下に目を付けられました。

 ああ、何と言うか…理解してしまった。
 ここに来る前に時、メイドさんが言っていた言葉が頭の中で蘇った。
 逃げたいけど逃げられない…さながら猛獣に狙われる獲物の気分。

 エルザ姫の言う通り、これが長い付き合いになりそうだという悪い予感がしていた。



「よしっ。 バッテン、早速ひと仕事だ」

「え」

 その悪い予感は…酒場で“とりあえず一杯”のエールのように早く訪れた。

「“とりあえず”一発殴らせろ」
「え……え?」

 僕の肩に手を置かれ、エルザ姫の空いた方の手に握られた拳が見せつけられた。
 
「あの時思ったんだ。 お前を傭兵(ようへい)として雇った時な、殴り甲斐がある…そう思ったんだよ。“盾”になったのなら、俺様が試しに殴っても問題ないだろ」
「え、ちょ、ひ、姫様、まさか……」

 嫌な予感は雄弁(ゆうべん)に語る。
 唐突(とうとつ)で、理不尽で、ありえなくて…思いつきのようなその行為だけど、この姫様から“やると言ったらやる”という危機感を覚えていた。

 あ…姫が、拳を振り被ろうとしてる。

「ぁ…あ……あひいぃぃぃ〜!!」


 その日―――デトワーズ城にて小規模の揺れが記録されたとの事でした。

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