第短編話 三
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前に、今まで外気によって冷やされていた、里香の手の冷気がこちらの顔に襲いかかる。その代償に里香は、俺の今まで暖房に当たっていた熱気を、その手の平に吸収していく。
「動かないでよー。荷物落ちちゃうわー」
「…………」
満足げに笑う里香の言う通りに、里香の荷物を預かっている俺は下手に動けず、里香の言いようにされていた。とはいえその冷たさに驚いたのは最初だけで、それからは里香の手の平の感触と温度を味わせてもらったので、こちらとしても有益だったが。策士、策に溺れると言ったところか――と、内心ほくそ笑んでいると、里香は満足しきったのか手を離した。
「あんがと! ほら、その小さなバックとあたしのハンドバックは自分で持つから。本当は、片っぽは自分で持ちたいんだけど――」
「大丈夫だ」
「――って言うわよね、あんた」
「見栄ってものを理解してくれて助かるよ」
大きなバックからハンドバックを、俺の肩から小さなバックを、里香は器用に俺から剥ぎ取って自らの手元に加えた。そしてそのまま大きい荷物をも剥ぎ取ろうとするが、そこはさっと里香の手から離れてみせる。
「じゃ、あんたに重い荷物持たせてる、っていうあたしの見栄はどうなるわけ?」
「それは……ん?」
痛いところを突いてきた里香の言葉に、それに対する返答に困窮していると、俺と里香の間に一筋の水滴が垂れてきた。わざわざそんなことをする酔狂な人間がいるわけがなく、さらに空から大量の雨粒が降り注いできた。
「げ、降って来ちゃったわね……」
「確か、近くに駅まで行けるバス停があったから……そこまで走ろう」
「ええ!」
里香に会った時からかなり怪しかった雨模様は、遂にポツリポツリと降り出した。慌てながらも記憶を探って、近くにあった屋根付きのバス停のことを思い出し、里香とともにそちらに走っていく。幸いにも、そのバス停は記憶よりも遥か近くにあり、人はおらず設えられていた椅子に座る。
「セーフ。ギリギリ濡れずにすんだわね」
「ああ。……あ、荷物は地面でいいか?」
「いいわよー。買い物先で貰った奴だし、袋」
里香の了承を得て、持って走るには重かった二つの袋を地面に置くと、盛大に降り始めてきた雨にため息をつく。こんなことならクラインの車で駅まで送って行ってもらえばよかった、とも思いつつ、車では里香に会えなかっただろう。
「翔希、こんなバック持ってたっけ?」
悩ましいところだ――なんて思っていると、その噂のクラインから渡された小さなバックのことを、里香が興味深げにジロジロと眺めていた。
「クラインから。まだ中身見てないけど、今日のお礼だそうだ」
「へぇ……見ていい?」
「どうぞ…っと」
そん
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