第短編話 三
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免許くらいは取っておきたくなる。そんなことを考えていると、車の中からクラインに小さなバックを投げ渡された。
「今日のお礼だよ。キリの字にも渡してあっから、家に帰ったら開けろよ。じゃな」
「ああ、また」
渡された小さなバックを不信げに持ちながらも、クラインに手を振って別れると、道行く車やバイクを見て駅への道を行く。どうせ持ち物と言えば、ポケットに入った財布程度のものなので、手提げ程度の小さなバックなど荷物のうちにも入らない。
「ふぁ……」
肌寒い中あくびをしたため、白い息が空気中に拡散していく。一晩中、主に肉体労働をしていたために、普段の鍛錬とはまた別の筋肉が痛んでいる。肩をグルグルと回して調子を整えつつ、不穏な空模様もあって手早く帰る時ことに――すると。
「あれ? 翔希?」
「ん……里香?」
見知ったどころか慣れ親しんだ声に振り向くと、茶色い癖っ毛を風でなびかせた、想像通りの人物が驚いた表情でこちらを見ていた。薄いピンク色のコートを羽織って、手には沢山の荷物を持っており、見るからに重そうな様子だった。
「どうしてこんなところに……って、そういやクラインの会社手伝いに行く、って言ってたっけ。帰り?」
「ああ。そっちは……見ての通りか」
「そ、ショッピング」
空模様が空模様なんで、早めに切り上げて帰ってきたけどね――と、両手に持った買い物袋二つを見せながら、里香はこちらにはにかむように笑う。こちらからすれば、どう見ても『これからパーティーでも?』と聞きたくなる量だったが、里香からすれば軽い買い物だったらしい。とはいえ、本人にとっては軽い買い物でも、まさか重量は軽くなるまい。
「持つよ。重いだろ?」
「んー……悪いわね。でも、あんまり中見ちゃダメよ?」
冗談めかした里香の言葉とともに、俺は里香から二つの買い物袋を受け取った。クラインから渡された小さなバックは肩にかけ、なかなかの重さが両手に心地よくのしかかった。
「うへー。手ぇ真っ赤……寒いし……あっ」
ずっと買い物袋を持っていたからか、里香の手はビニール袋の持ち手の形のままに赤くなっており、熱いものを冷ますようにフーフーと息を吹きかけていた。すると何かを思いついたように、俺の顔を見てニヤリと笑った。あの表情は、ろくなことを考えてない顔だ――と、長年の経験から推測を立てる。
「里――」
「えいやっ!」
「――――!」
俺が警告の言葉を発するより早く、里香の手がこちらの顔にまで伸びてくると、手の平を両頬に抑えつけてきた。
「ふふん。温いじゃない翔希ー」
自慢げに俺を見上げながら、里香は器用にも手の平で俺の頬をグニョグニョと弄る。里香の柔らかい手の感触が伝わってくる以
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