第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:不可視の変調
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ぐれを起こした。
「みゃぅ!?」
「驚かせちゃいましたかねぇ。………でもぉ、こうしてギュ〜ッてされるの、気持ちいいでしょ〜?」
少女を抱き寄せる。
自分の胸に顔を埋める少女の戸惑う姿に愛らしさを感じる反面、不思議とピニオラ自身も安らぎに似たものを自覚する。我ながらどうにも度し難い感情ではあるが、決して悪いものではない。
「………………えっとね」
「どうしましたぁ?」
もぞもぞと身動ぎし、なんとか顔を出した少女は真っ直ぐにピニオラの瞳を見つめて告げた。
「さっきは助けてくれてありがとう、………お姉ちゃん」
「どういたしましてぇ〜」
純粋な言葉で向けられた謝意に応じつつ、この少女が自分を引き留めていた理由に思い至る。
なるほど、自分の思いと親の言い付けを折衝させた結果の行為が、あのしがみつきだとしたら存外可愛いものだ。気まぐれで構ってしまったが、この成り行きを見続けるのもまた一興というものだろう。
思い立ったが吉日と、ピニオラは少女の髪を梳くように頭を撫でながら問いかける。
「いいこと思い付いちゃいましたぁ。お姉さんのお家に来てみますぅ? 今ならもれなくわたしと一緒に暮らせますよぉ〜?」
「………一緒にいても、いいの?」
「もちろんですよ〜………今まで、よく頑張りましたねぇ」
瞳が潤みだした少女の顔を再び抱き締めて、嗚咽が止むまで頭を撫で続ける。
黒鉄宮へと通じる街路を循環する葬列のような人ごみの片隅、他者の死を題材に物語を紡ぐことにしか興味を持てなかった自分に起きた変調を、ピニオラは熟考することはしなかった。
これはただの気まぐれで、これほど自分を惹きつけて止まない存在が淀んだ場所に在り続けるという事実に我慢できなかっただけ。ただ、その存在を自分の手元に置いておきたいと願って、その願望に基づいて行動しただけのこと。
言うなれば、お気に入りの玩具を傍に置いておきたいという、極めてエゴイスティックな理由。
この感情はそれ以上でも、それ以下でもないと自らに言い聞かせて、ピニオラはゆっくりと抱擁を崩した。
「ではですねぇ、お家に行く前に一つだけ。お名前を教えてくれますかぁ〜?」
問いかけに少女が頷くと、再びピニオラを見つめる。
「わたしね、《みこと》っていうの」
「それは、その〜………本当のお名前ですかぁ?」
「うん、そだよ?」
「そうですかぁ………ちょっと失礼しますねぇ〜?」
純粋な返答に、ピニオラは一先ず少女の手を取り、人差し指を宙に滑らせた。
追って現れるメインメニューのアイコンとウィンドウから、ステータス画面を探し当ててプレイヤーネームを確認する。
――――《Dtgstnf》
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