第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:不可視の変調
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この質問も、決して少女を心配してのものではない。
彼女の描くストーリーは複数人の登場人物がなくては成立しないのだ。
死ぬ者、残される者、その配役はシチュエーションによって様々で、時にはどちらかに偏ることさえあるが、これまでの彼女の思考からして《天涯孤独の死》は好まないところであった。
そして、僅かな沈黙を経て少女が返答する。
「………知らない人とお話ししちゃダメって、ママが言ってたから」
ならば何故引き留めたのか。
努めて冷静に疑問に向き合うものの、幼い相手のすることなど見当も付かないと思考を放棄。
もっと建設的に会話を進めるように段取りを整えることを第一とした。
「あらら〜、良いお母さんですねぇ。………じゃあ、こうしましょ〜」
ピニオラはフードを外し、中腰の姿勢をつくっては少女と目線の高さを合わせる。
視線が合って身体を強張らせた少女を安心させるように、得意のポーカーフェイスで柔らかな笑みを演じ、改めて言葉を紡ぐ。
「はじめましてぇ、お姉さんのお名前は《ピニオラ》って言うんですよ〜」
「………ぅ………えっと………ぴ、に?」
「慌てなくても大丈夫ですからね〜。ゆっくり、お友達になりましょう?」
恐る恐る首肯する少女に頷くと、一度は拒絶された問いの答えを返される。
「…………パパとママはいないの。パパのおもちゃで勝手にここに来ちゃったから…………わたしは、ひとりぼっちなの」
「ずっと一人だったんですかぁ?」
「………うん、お金が落ちてるから、拾ってパンを買って食べるの………知らない人とか、真っ暗なのは怖いけど、ひみつのばしょがあるから………平気」
訥々と話す少女の言葉、ピニオラはその一切を真実なのだろうと判断する。
その決め手となったのは、装備の劣化度合だ。
圏内において、プレイヤーにダメージが発生する事象に見舞われても、プレイヤー自体はシステム的にダメージから保護されるが、装備に至ってはその限りではない。何らかの要因で衝撃を受ければ、装備だけが耐久値を減らすことになる。
恐らく、幾度となく軍のプレイヤーにちょっかいを出されたであろう形跡が、ワンピースやブーツの擦り切れに現れている。そして、それを修復するスキルを習得するという知識を与えてくれる誰かも、修復をしてくれる誰かも、彼女の周りには誰も居なかったのだろう。
誰かに縋る術さえ知らないで自分の力だけで今日まで生き繋いだ少女は、生憎と作品の題材には為り得ない。それでもピニオラにはとても尊く思えた。
周囲を取り巻く愚物とは異なり、本当の意味での強さを宿した彼女を、もう少しだけ知りたい。
題材に為り得ずとも興味の尽きない不可解な対象に、少しばかりの気ま
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