第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:不可視の変調
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どうかしましたかぁ?」
「……………」
気を利かして声を掛けるものの、少女は黙秘を貫く。
代わりに、しがみつく腕の力を強めて無言の主張を行うのみ。
「………………」
「………………」
沈黙。
雑踏のうちに張りつめた静寂は、数分という些末な時間にさえ膨大な重圧を齎してピニオラの精神を苛んだ。
こちらが譲歩しても相手は頑として語らず、こうして無為に時間が過ぎるということに対して、焦燥が募ってゆく。精神衛生上、この状況はあまり好ましくないとピニオラは結論付ける。
「………あのぅ、そろそろわたしも行きたいところがありましてぇ………離して頂けませんかねぇ〜?」
「…………………」
そして痺れを切らしたピニオラは、やんわりと少女に絶縁状を差し出す。
所詮は行きずりの縁。このまま離れて数分もすればお互いにこの件を忘れてしまえるだろう。そう思ったからこその意見は、呆気なく無言で一蹴される。
同時にこのあたりがピニオラの平常心でいられる臨界点だった。
「………これ以上いじわるしたらぁ、お姉さん怒っちゃいますよぉ〜? と〜っても恐いですよぉ〜?」
「………こわく………ないもん…………」
「そ〜ですかぁ〜。そんな反抗的な態度とっちゃいますかぁ〜………ちょっとそこに正座………あらぁ?」
ようやく言葉を発した少女に、ピニオラも冷静さを取り戻す。
冷静になった結果として、どうして見ず知らずの少女に対してここまで律儀に対応しているのか甚だ疑問ではあるが、幼気な少女を無理矢理振り払うほど大人気なくもない。
「ちゃんとお話し出来るんですねぇ。じゃあ、今度はちゃんとお顔を見ながらお話ししてみませんかぁ?」
とはいえ、このまま拘束されているのも鬱陶しい。
ものは試しと交渉してみた結果、意外とあっさり解放してくれたことでようやく少女に向き合う。
「ありがとうございますぅ。うん、やっぱり可愛いお顔ですねぇ」
「……………ぅぅ」
ピニオラとしては口から出任せの発言であったが、少女は照れてしまったのか視線を逸らされてしまう。
それでも、幼いながらに目鼻立ちは将来に期待できるものだとピニオラは内心で思いつつ、少女を観察している自分に気付いた。
こうして相手を見定めようとする癖は自らが作家であるが故だと考えている。
つまり、今の自分は眼前の幼女を《主人公》として見ようとしていることに他ならないだろう。
………しかし、こうして出てしまった癖はどうしようもない。
満足するまで鳴りを潜める事のない悪癖を抑える理由などなく、ピニオラは会話を続ける。
「ところでぇ、お父さんとお母さんはどこにいるんですかぁ?」
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