第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:不可視の変調
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ピニオラが創作意欲、PKへの意欲が高まるタイミングというものは一貫していない。
幾つかの掛け持ちを同時進行することもあれば、ただ黒鉄宮へ赴くか、或いはレベリングを行うだけの日々を過ごすこともある。極めて気まぐれなアーティスト気質とは自己評価であるが、そもそも気も漫ろでは自ら納得のいくストーリーに巡り会える筈もない。この世界に閉じ込められたプレイヤーは謂わば資源。無暗に命を奪って楽しむ輩も大勢いるが、そんな彼等の神経について彼女は常々疑うところがあるほどだ。
不協和音のような悲鳴が心地よいものか。
それは酷く愚かしい行為でしかないのだと、彼女の価値観は否定する。
人の死とは常に、そのストーリーに相応しい集大成であらねばならない。
憎愛や嫉妬、人の為す色彩豊かな感情に彩られた最期の一瞬。
物語の終止符は唐突に、美しい花を手折るように、恐怖の鮮度を保っていなければならない。
そうすれば、死はもっと甘美な芸術に昇華するというのに………
ともあれ、今日は彼女にとっては興の乗らない日。
そういう日は創作活動からきっぱりと離れて過ごすように習慣づいたこともあり、足取りは第一層主街区の中心部へと進んでいく………筈だった。
「………あらあらぁ?」
本来ならばその道中に何があろうと気にも留めないピニオラであったが、どういうわけかこの日だけは勝手が違った。視界の左端。路地の薄闇を背にして一人の少女が泣いていたのを、偶然見かけてしまったのである。
見かけた程度であれば歩みを止める理由にはならない。しかし、その少女がSAOというパッケージに不相応なほどに幼かったこと。あまり見かけることのない物珍しさに惹かれたのか、ほぼ無意識にピニオラは少女に視線を向けていたのだ。
しかし、すぐに近寄ることはなく、一旦理性を呼び起こして好奇心を制し、なぜこの場に年端もいかないような女の子がいるのかを冷静に思考を巡らせる。
先ずはその少女が本当にプレイヤーなのか否か。
再度確認したカラーカーソルは《グリーン》であり、どう見ても一般プレイヤーのそれだ。NPCであれば解らなくもないのだが、興味のような感情は次第に湧きあがるばかりだ。
次に両親の同伴でログインしているか否か。
こんなデスゲームにおいて子供を屋外ではぐれさせる親がいるだろうか。答えは否だろう。というより、年齢制限を満たせていないゲームをプレイさせる時点で親として失格だ。つまるところ、近くに親であるプレイヤーは居なさそうだ。
最後に第三者の保護のもとにあるか否か。
しかし、その疑問は即刻破却される。何しろ、少女の叫びには明確な人物の名前が聞き取れなかったからだ。そればかりか、お父さんだとかお母さんだとか、誰かを指すような単語が見受
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