第三章
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それで僕はこう妻に言った。けれどだった。
妻は笑ってだ。こう僕に言ってきた。
「そうじゃなくて。二人でね」
「二人?」
「そう。私達二人の旅行よ」
こう言ってきたのだった。
「忘れてたのね。結婚前に」
「ん?そういえば」
妻に言われてだ。僕もやっと思い出した。
それはというと。
「あれかな。バルセロナに」
「そう。やっと思い出してくれたわね」
「そういえばそんな話してたね」
「私の趣味旅行だったじゃない」
既に過去形の言葉だ。妻の今の趣味はジョギングに料理だ。それとカラオケだ。
「だから。子供達も落ち着いてきたし」
「大学と高校にも入ってたしね」
「犬の世話も任せられるじゃない」
犬は飼った時からずっと元気だ。相変わらず愛嬌を見せてくれている。
「だからね。ここはね」
「二人で旅行にか」
「バルセロナに。どうかしら」
「ずっと忘れてたけれどね」
それでもだとだ。僕は言った。
「じゃあ。思い出したし」
「そう。行く?」
「行こうか」
妻の言葉に乗った。僕も。
「それじゃあね。バルセロナにね」
「お金もあるしね」
その頃は旅行だけに使っていて旅行貧乏だったけれどそれがなくなって子育てや仕事に夢中になって。気付けばお金はそれなりにあった。貯金が。
それでだ。お金のことは心配なくなっていた。
「それじゃあね」
「行きましょう。お花が咲く季節にね」
「そうだね。やっとだね」
本当にやっとだった。気付けば二十年前後経っていた。
「二人であの町に行けるね」
「遠回りだったかしら」
「いや、遠回りじゃないよ」
「そうじゃないの?」
「違うよ。今この時期に行くことになってたんだよ」
「そうなってたのね」
「そうだよ。僕達はそうだったんだよ」
あの時に行くべきじゃなくて。その時にだったのだ。僕も今になってわかった。
それで僕は早速だった。その時はなかった家のパソコンの電源を入れてそれからだ。インターネットでバルセロナについて検索した。
それからだ。僕達は二人で話した。
「今から二人で調べよう」
「ええ、それで行きましょう」
夫婦でバルセロナのことを話した。今二人で行くバルセロナも楽しいだろうと思いながらだった。僕達はインターネットで調べた。あの花の季節に行くあの町のことを。
リラの咲く頃バルセロナへ 完
2012・4・4
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