第20話『吹き渡る風』
[1/8]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
この状況を生涯で経験できるのは、恐らく1回きりだろう。そう思えるほど、現状は馬鹿げているものだった。
「と、戸部さん…これって…」
「ははは…夢か何かですかね…」
俺らを未だに見ている大熊。
どう考えても、俺らは生きて帰れないと思う。
アレが子供だったらまだマシだっただろう。
だがアレはどう見ても、さっきまで動物を喰い散らかしていた奴だ。口元の血痕がそれを物語る。
「こういう時って死んだフリだっけ?」
我ながら子供っぽい質問をしたとは思うが、今の事態に置いてこのことはとても大事な突破口だ。
「い、いえ、それはダメだったと思います。確か目を逸らさずに、ゆっくりと離れるとかが正解だったと・・・」
俺の問いに慌てながらも答える戸部さん。
いやいや、ゆっくり逃げてたら追いつかれない?!
大丈夫なのその案!?
「とにかく…やってみましょう」
「う、うん…」
しかし四の五の言ってはいられない。俺と戸部さんはその作戦を実行した。
熊は依然としてこちらを見ている。
だからなるべく、動いているかどうかもわかりにくいくらいのスピードで後ろに下がる・・・
「ひゃっ!!」ドテッ
・・ものの見事に、戸部さんがコケたことによって作戦が瓦解した。
尻餅をついてしまった戸部さんを「弱っている」と見たのか、熊がこちらにゆっくりと向かってきた。
「戸部さん! 捕まって!」
俺は戸部さんに手を差し伸べる。
ホントは無理矢理引っ張って行きたいのだが、熊の生態上それは無理だとわかった。
だからと言って、モタモタしてる暇はないのだが。
「ごめんなさい…」
俺を手を掴み、立ち上がった戸部さん。
怪我はしていないみたいなので一安心だ。ここで捻挫でもされてたら、本当に危なかった。
再び、俺たちは後ろに下がり始める。
だが既に奴は俺らの方に向かってきている。
奴とこちらでは、歩幅が圧倒的に俺らが不利。つまりはいずれ追いつかれる。そうなるとゲームオーバーだ。
もう俺は察していた。
あんな奴に立ち向かうには、銃などの武器、もしくは・・・
「俺の魔術・・・」
…しかないということを。
『銃』と考えると、部長の技を思い出した。
あれを使えば、もしかしたらアイツを倒せるかもしれない。
しかし、俺の魔術は不完全。使えるようにはなったみたいだが、発動条件は不明。完璧に“運ゲー”となっているのだ。
それでも俺は、戸部さんの前に立ち塞がるように立ち、大熊を見据えた。
「三浦君!?」
戸部さんは驚いた声を上げていた。自分でもこの行動は驚いた。
そりゃ
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ