ムーンライト・オキナワ
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それはちょっとした冒険のつもりだった。
少女は明日の宇宙往還機打ち上げのゲストとして招かれてはいたが、子供というのは好奇心の塊だ。
ありとあらゆるものがめずらしいこの街を少しだけ見てみたいと部屋を抜けだしたのである。
ホテルの周囲ぐらいならば大丈夫だろう。
普通ならついている護衛の人が危なくなったら止めるだろう。
そんなある程度の打算と抑えきれない好奇心の冒険は、エレベーターが開いた瞬間にスリルとサスペンスに変わる。
「こんばんは。お嬢さん。
こんな時間にお出かけかな?」
「こんばんは。
おじさん。
あたし、とうどうまいこです」
ぺこりとお辞儀をする。
直感で分かった。
悪い人ではない。
けど、危険な人なのだろう。
だから確認する。
「おじさんはあたしのごえいですか?」
「護衛じゃないなぁ。
おじさんはね、どろぼうなんだよ」
実に楽しそうに泥棒は笑う。
エレベーターが閉じて、下に降りてゆく。
「お嬢さんは何処にお出かけなのかい?」
「あたしこのまちをみてみたいの」
「そうかぁ。
一人じゃ危ないなぁ」
少女は降りてゆくエレベーターのランプを眺める。
これから行うちょっとした冒険の前には、無害らしい泥棒とて気にしない大胆さが少女にはあった。
そのあたりのおおらかさと打算的思考は少女の一族の遺伝みたいなものなのを少女は知る由もない。
「ならば、どろぼうさんがガイドをしてあげようか?」
「ほんと!?」
泥棒は少女の目線まで屈んで、手慣れたしぐさで魔法の言葉を唱える。
その魔法が、とある公国のお姫様を救ったことを少女は知る由もない。
「どうかこの泥棒に盗まれてやってください」
警備員や警護の人間を巻いて、ホテルから出られたのは泥棒のおかげだった。
彼が運転するフィアット500は煙草臭かったが、少女は窓の外に広がる月夜に浮かぶ多層構造物に目を奪われていた。
「あれが立ち始めたのは、80年台の終わりって話だ。
東西冷戦が終わり、赤い国が終わり、この間の戦争でこの街は新たな役割を持つようになるのさ」
子供だからといって優しく説明する必要はない。
分からなければ質問するだろうし、分からないまま大人になった所で、この出会いを覚えているかも分からない。
だからこそ、泥棒は少女を一人の人間として扱った。
「やくわり?」
「そう。
終わった戦争は、この国の色々なものを変えちまった。
そしてこれからも変わってゆくのさ」
統一戦争が終わって、日本という国の人口は一億四千万になった。
二千万人と言われた北日本の人口は社会主義国家によくある信用出来ない
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