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俺の四畳半が最近安らげない件
人馬の男〜小さいおじさんシリーズ8
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るような鬣の巨大な馬が、黒じょかを、杯を弾いて酒宴の中央に躍り込んできた。白頭巾が口に咥えているのは、あの馬笛……。
「何故、赤兎馬を呼んだ!?」
端正が白頭巾の襟首を掴みあげた。白頭巾はさして意に介さず、ただ興味深げに呂布を眺め続ける。
「―――どうしても、見たかったのですよ」
呂布は、ふらりと立ち上がって赤兎馬の前に立ちはだかった。馬の視線と、呂布の視線が妖しく絡み合う。そしてその首筋に、呂布の腕が掛けられた。


「うおおぉぉぉおおおお!!!!」


雷鳴のような咆哮が、深夜の四畳半に響き渡った。明日大家に叱られることは必至だ。そんなことより、しかし。何ということだ、この恐ろしい人馬は。怒髪天を衝き、熱を帯びた陽炎が立ち昇り、流木のような剛腕が巨大な朱槍をかざす。さっきまでの好男子はどこへやら、怪馬に跨る魔人の様相だ。彼が激しく拍車を掛けると、赤兎馬は天を衝くような雄叫びと共に炬燵から飛び降りた。やべぇ、こんなとこに転がってたら踏まれる!俺は慌てて飛び起き、人馬に道を開けた。奴らは俺の枕を引き裂いて押入れの隙間に飛び込んで消えた。
「…………」
豪勢が呆然と、荒らされた酒宴の席に座り込む。
「彼の人格が赤兎馬に引っ張られて変貌する瞬間、見せて頂きました」
白頭巾が満足げに微笑んで羽扇で口元を隠した。端正は白頭巾の襟首を放して突き飛ばした。
「…度し難いわ卿は。まかり間違えば人死にが出るところだ!」
白頭巾はくるりと居住まいを正し、誰のものか分からぬ杯を持ち上げて、くいっと呑んだ。
「もともと死人みたいなものでしょうが、私たちは」
「―――肝を冷やしたな」
さっきから押し黙っていた豪勢が、大きく息をついた。
「助かったわい。貴様の気まぐれに感謝するのも筋が違うかも知れんが…」
「どうやら彼は赤兎馬に跨った瞬間、知能が赤兎馬側に引っ張られるようですな。どういった仕組みなのでしょう」
豪勢の感謝などにはさっぱり興味はないらしい。先ほど呂布が切り分けたハムを淡々と噛みしめながら、なおも考え込む白頭巾。端正は舌打ちと共にその辺の座布団を引き寄せて乱暴に座った。
「くそが、また卿らと3人きりか!…ようやく話の分かる漢が加わったと思ったのに」
半ばやけくそ気味に杯を呷ると、端正は豪勢を睨んだ。
「大体、何なのだ卿は。普段の傲岸不遜さはどうした、何故それほどに彼を恐れる。良い奴ではないか」
「ぐぬぬ…」



「――む、ちょっと待て」



かつり、と冷たい音を立てて、杯が置かれた。
「卿。聞きたいことがある」
「………」
「貂蝉は、どうしたのだ」
豪勢は押し黙ったまま、月を見上げた。答える気はないらしい。
「呂布を処刑したあと、赤兎馬は接収され、関羽に下賜されたと聞く。貂蝉はどうした?名に
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