第16夜 断末
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くない常夜の箱に、鉄の拘束具に絡みつかれた猛獣のように拘束される。
ずぐり、と胸の奥が抉られるような錯覚。
自分とはなんの縁もゆかりもない、今日に大人の都合で顔を合わせただけの女の子だ。綺麗だと思ったし、同情もしたけど、同時に怖がりもしていた。なのに、ギルティーネがもう一度あの牢獄に閉じ込められて馬車に運ばれる光景を頭に思い浮かべると、心の内の誰かが「それでいいのか」と責め立てるように警鐘を鳴らす。
その選択を是としてしまうのは、同時に自分の中にある大切な何かの意味を決定的に違える。
ペトロ・カンテラに照らされて僅かに艶の戻った黒髪を揺らす、儚げな少女。戦う際は烈火の如く、しかしこうして静かに歩いていると、ふとした拍子に闇に融けて泡沫の夢と消えてしまうのではないかと思えてくる。
(………消させたく、ないな。少なくとも彼女の立場が安定するまでは)
唯の自己満足なのだと分かってはいる。
それでも、少女一人。何が「人喰い」なのかも分からない、分からないことだらけだが嫌いだとは思えない彼女を助けたいと思うのは人としておかしいことだろうか。
トレックの想いをよそに、ドレッドから声がかかる。
「道も中ほどを過ぎた。呪獣の数も少ない。気を抜かず進み、全員でクリアすれば誰も死なずに済むだろう。ステディのことにそこまで目くじらを立てないでくれたまえよ?」
「そいつはそちらの出方次第だ。俺だって無駄に争いたくはない。配給される銃弾の数だって多くはないんだから」
「ふっ………なるほど、君はそういう男な訳だ」
「?」
勝手に得心したように微笑を浮かべるドレッドを、俺は不思議に思う。意味が解らないのもそうだが、そう言えば『欠落』持ちに好かれたことのない俺に対し、彼は一切不快感のようなものを覗かせない。そういう『欠落』という可能性もあるが、どうしてなのだろう。
トレックはその疑問を、試験が終わってから彼にぶつけてみようと考えた。
――少し後に、その決断を激しく後悔することになるとは知らず。
「……ん?前方にペトロ・カンテラの灯があるな。先行していた別の学徒か?」
「ふむ、妙だな……我々は上位種相手にそれなりの時間手こずったし、その後ペースアップもしていない。なのに先行していた学徒に追いつきはじめるというのは考え難い。何か足止めを受けているのか――」
忘れがちだが、この試験は多数の人間が受けているのだから、当然暗闇の中に味方の姿を発見することとてありうる。距離にしておおよそ100m程度先にあるその灯りは明らかにペトロ・カンテラのそれだった。
だが、理由を分析するより前に――耳を劈く悲鳴が暗闇を引き裂いた。
『………やめろぉ、やめろぉッ!!嫌だ……俺は
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