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満願成呪の奇夜
第15夜 宣告
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賃金の落差がかなり激しい。
 レグバ元老院やアデセコワ商会傘下の企業などが高い社会的地位や収入を得る半面で、日雇いの職ではその日を食いつなぐのが精いっぱい何てことも珍しくない。特にここ100年ほどは完全失業者の貧民化が進み、皮肉にも大陸外の宗教家たちが彼等の命を炊き出しで繋いでいるケースもある。

 『大陸の結束は失われつつある』。一般人の間では上手くいかない世の中に対する言い訳のように、そして元老院や教会では対呪獣体制の崩壊を招きかねない現実的な問題として横たわる。

 これまでは呪獣を大陸の民共通の敵として一丸となっていたが、その同族意識は皮肉にも「普通」と「欠落」の二種に分裂したことで希薄になり、そこから更に大陸外の思想が広がり細分化。今では呪法教会の資金的な締め付けもかなり煩くなっている。

 「普通」の人間の見ようによっては、呪法教会という組織は、安全圏である結界の外にいる接触の必要もない敵を態々倒すために民の金や資源を消費し続けていることになる。つまり、「戦う必要のない相手と戦うために大量の金を喰っている」組織と解釈することが出来る。
 しかもその構成人員は全員が『欠落』を持った普通ではない精神構造を持つ人間で構成されているとなれば、一般人の認識との壁はさらに大きく、分厚くなって両者を隔ててしまう。この大陸に、呪法教会など存在しなくともいいと本気で考えている人間が現実に存在するのだ。

 トレック達呪法師はそんなことは微塵も考えない。
 呪獣と言う存在は2000年以上が経過した今でも依然として人類の天敵だ。正体も掴めないし、進化の兆しすらうかがえる。実際にその姿を視認して襲われれば、口が裂けてもそんなに愚かしい事は言えまい。世界を蝕む圧倒的なまで存在感(リアル)が、呪獣を無視することを許さない。
 対して一般人は呪獣を直接見ることがまずない。呪法師たちが当たり前に感じる事の出来る存在感(リアル)を認識することが出来ない。だから呪法教会が必要ない等と愚かしい思想を持つ余裕がある。

 嘗ては人々の夢の結晶であった五行結界が、今では呪法教会の足枷になる。
 その現実を知ってしまった今、トレックはもう「普通」の人間たちの元に戻れないような気がしていた。

(結局話は戻り、羊の群れから離れたから狼に受け入れられるとは限らない訳だ。この板挟みにもすっかり慣れてしまった自分が悲しいな)

 先ほどからドレッドのチームの側から突き刺すような鋭い視線を感じる。その視線の主は、先ほど上位種の呪獣討伐を手伝ってくれたばかりのステディだ。

 トレック達はまだ前線に出ない身である準法師という立場でありなから、実戦では法師を容易く殺める上位種を討伐した。これは誇るべき大きな成果であり、その為の作戦を立てたトレックは褒められても罰
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