第15夜 宣告
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囲にいる人間は、こうだという行動を一度取った後にそれを曲げたり、以前とまるで違う行動をとる存在はいなかった。知識的な学習によって大きく行動を転換させる存在ならいたが、「戦うか戦わないか」などという根底的な部分が瞬時に変化する存在など見たことがない。
………『欠落』を持たない、普通の人間ども以外には。
(トレック・レトリック……貴様も『欠落』しているのではないのか?それとも貴様は違うのか?私にはギルティーネという罪人より、貴様の方が余程理解できない……!)
普通であることが、普通ではない。
この男は異常だ。
そう、感じた。
= =
振り返ってみれば、碌に目立つ特徴もない男になっていた。
いや、別に飛び抜けて没個性という訳ではないと思う。努力家とか、周囲の仲を取り持つのが上手いとか、公園で紙芝居を見るのが日課だったとか、肉があんまり好きではないとか、そんな人とのちょっとした違いはある。当たり前に存在する自分と他人の差異は、探せばもっとたくさんあるだろう。
しかし、もっと広義の――例えば出身地である『朱月の都』という地域的な括りや、近所、クラスなどの複数の人間が共通の価値観を持つことで構成された集団の中にあって、それを構成する部品の一つとして見れば、所謂「はみ出し者」とか「変わり者」に含まれるほど異端的な扱いを受けたことはない。
節度ある協調性を持って普通に過ごしていたら、普通の存在になっていた。
珍しくもないことだ。自分でも、呪法師などという道を目指す前まではそれを意識することもなかった。
そして今、自分はその大きな括りの枠をはみ出した存在となっているのかもしれない、と思う。
『普通』の人と『欠落』持ちの人の間にはもっと根本的な――心の根っこの部分でしっかり符合する同族意識のようなものがずれている。同じ姿、同じ文化、違う個性、条件はほとんど同じなのに、彼等の真っ新な心にぽつんと空いた小さな穴が、その隔たりをより大きなものとする。
その根底にある意識が、いつもトレックという人間の在り方を阻害する。
自分は、普通の人間として育ってきたのだ。羊のなかで、羊として生きてきた。
しかし、自分には呪力があった。『欠落』の証たる呪力――羊ではなく狼たる力。仮に自らの身体が狼であったとして、それまで自分が羊だと思って生きてきた狼は、果たして狼の群れで上手くやって行けるか?
(その答えが、俺の今か……ホント、呪法師の道をもっと早く諦めてたほうが良かったか……?)
とは言うものの、『朱月の都』で安定した収入を得るのは簡単な事ではない。大陸の文化的中心である『朱月の都』には表立った産業がないため、食い扶持争いは他の都より激しい。簡単な話が、職業による
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