第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
11話 誰かの残り香
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みただけよん?」
「だってアンタ、自分で行きたくないからってクエとかアイテム入手とか全部押し付けるだろうが………」
「ありゃ、そだっけ? ま、とりあえず………こまかいことは言いっこナシだぜ!」
色々とうやむやにされたものの、要求のハードルが下がったことは喜ばしい。家具の設置に目を瞑れば俺に関する依頼もなかったからこそ尚のこと喜ばしい限りだ。
「ま、お願い事はこれで一つ済んだとして、もう一つはお姉さんからキミ達への注意喚起ね」
前置きを残し、ローゼリンデは奥の作業台の上に畳んで置いてあった女性用の衣服を手に取ってカウンターに置いた。白いブラウスに赤いタイが添えられた、どこか単調な衣服。それから手を離すと、顔からふざけた笑みを排し、何時になく真剣な面持ちを作る。
「これね、二ヵ月前に依頼された品なんだけどさ、お客さんが取りに来ないんだよね。どうしてか解る人ー?」
唐突に切り出されたものの、返答に困る内容だった。
よくクリーニング店では預けられた服を取りに来ないままずっと手元に置かされるなんて話があると聞いたことがあるけれど、それと同じことがこのSAOでも起きるのだろうか。だとしたら、こうした生産系プレイヤーには痛手になりそうだ。とくに、オーダーメイドでは先に代金を見積もることが難しい。素材の相場は《ドロップ率》や《当該モンスターの湧出率》というシステム的か或いは確率的な要因と、《素材の有用性》や《その時における需要の度合》というプレイヤー側のニーズによっていくらでも変動する。ずっと安値だったアイテムの使い勝手の良さが爆発的に広まった結果、価格が十数倍に膨れ上がったという例だって存在する。カウンターに乗るそれがどれほどの価値なのかは俺の知るところではないが、そういった背景を鑑みると、かなり悪質な案件のように見えてくる。
だが、ローゼリンデは丁寧に畳んだ衣服を一撫でして、予想外の言葉を以て答え合わせとした。
「これね、実は《お客さんが死んじゃった》から誰も取りに来れない商品なのよん」
「お前、じゃあ………これは………」
「そ、これが注意喚起………リンたんは優しいからお姉さんのこと心配してくれてたんだろうけどね、これじゃ恨み言も言えんのよ。いやぁ困った困った」
確かに、恨み言も言えたものではないだろう。
見たところ、防具としての性能は一切期待できないような脆弱な装備――――つまるところ、普段着かおしゃれの為の晴れ着というところか。その類は言わずもがな嗜好品であって、このデスゲームにおいてはある程度の精神的な余裕がなくては得られない代物だ。つまり、これを手にしようとした何某かは、死の恐怖を乗り越えたか、或いは何かしらの幸福を見出したか。だとしたら、これは慢心を諌める教訓だと
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