第三十一話 研修先でもその二
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「それじゃそこね」
「ご一緒しますね」
「ご一緒に?」
ここでやっと気付いたのでした。
「ご一緒にって誰と?」
「だから先輩とですよ」
先輩という言葉が出て来ました。
「決まってるじゃないですか」
「先輩!?ひょっとして」
その言葉を私にかけてくるというと。一人しかいません。その彼は。
「君のクラスだったの!?」
「はい、そうなんですよ」
阿波野君でした。いつもの能天気な顔で私に応えてきました。
「いやあ、映画村ってやっぱりいい所ですよね」
「何で阿波野君のクラスなのよ」
もう自然にこの言葉が出てしまいました。
「よりによって」
「嫌ですか?」
「巨人の日本一の胴上げ見た方がましよ」
こう言ってやりました。
「はっきり言ってね」
「それは僕も嫌ですけれど」
「じゃあわかるわよね。折角皆で楽しく過ごそうって思っていたのに」
「それじゃあ僕と楽しく」
「そういう発想は何処から出るの?いつもいつも」
本当に。ここまで根拠のない能天気さは何処から来るものなのか本気で知りたいです。どういった頭の構造してるんでしょうか。
「とにかくね。私はね」
「吉原行きましょうよ」
人の話なんか聞いてはいませんでした。
「二人で。早く」
「それできないし」
はっきりと言ってやりました。
「阿波野君は阿波野君のクラスと一緒に行ったら?」
「何でですか?行けないって」
「皆と一緒にいるからよ」
そのクラスメイト達に顔を向けて阿波野君に言いました。
「皆とね。だから無理よ」
「あっ、そうなんですか」
「そういうこと。だから今回は一人で行ってね」
「何言ってるのよ、ちっち」
「ねえ」
ところがここで。思わぬ所からクーデターでした。
「私達なら別にいいし」
「気にしなくてもいいわよ」
「そうそう」
「えっ!?」
その皆が急にこう言い出したので私もびっくりしました。
「それってどういうこと!?」
「折角後輩が先輩を慕って来たのに邪険にするのはよくないわよ」
「よっ、この年下キラー」
煽りの言葉まで出て来ました。
「この子と一緒に行けばいいじゃない」
「そうよ。二人でね」
「ちょっと待って」
皆がにこにこというかにやにやとして言うので私も反撃に移りました。
「何でそうなるのよ。私が阿波野君となんて」
「いいじゃない、この子ちっちといたいみたいだし」
「だからね」
「名前、阿波野君だったわよね」
「はいっ」
阿波野君は皆の問いに明るく答えました。
「阿波野新一っていいます。宜しく御願いします」
「いい名前よね」
「ああ、そういえば春季大祭の時に」
「はい、先輩にはお世話になりました」
この明るい言葉がまたしても騒動になりました。
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