暁 〜小説投稿サイト〜
忘れ形見の孫娘たち
1.爺様、逝去
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旺盛な人ではあったけど……まさか艦これに手を出しているとは思わなかった……まぁ確かに戦中派の高齢者の中にはプレイしている方もいるようだから決して珍しいことではないだろうけど……でもわざわざショートカットをデスクトップに作っておくほどのめり込んでいるとは……ひょっとしてずっとプレイしていたゲームってこれか?

 僕は艦これをプレイしたことはない。ちょうどヒラコーショックが起きて注目を浴びるようになってしばらく経った頃に興味が湧いてアカウントを取ったのだが、その時はサーバーが抽選式ですぐにプレイし始めることが出来ず、そのまま結局プレイすることはなかった。

 タッチパッドの上で指を滑らせ、艦これのショートカットにマウスカーソルを重ねた時だった。

「和之ー。ちょっと来てー」

 和室の方から母ちゃんの声が聞こえてきた。僕はパソコンをそのままにし、呼ばれた和室に移動する。

 和室では母ちゃんが爺様の遺影を持って立ち尽くしていた。視線は仏壇の横に飾られている優しい笑顔の今は亡き婆様の遺影に向けられていた。

「母ちゃんどうしたー?」
「爺様の遺影を婆様の隣に飾りたいんだけど……母ちゃんじゃちょっと背が届かないから。飾ってくれる?」

 爺様の遺影など別に飾らなくてもいい気もするけど、かあちゃんにそう頼まれてしまった以上仕方ない。僕は母ちゃんから爺様の遺影と押しピンを受取り、婆様の右隣に爺様の遺影をぶら下げた。

「うーん……」
「どうしたの?」

 僕は改めて爺様と婆様の遺影を見る。優しい微笑みで女性の柔らかさをこれでもかとアピールしてるかわいらしい婆様と比較して、爺様のこのエネルギッシュなまばゆい笑顔はどうだ。なんだこの写真からも感じられる無駄にすさまじいプレッシャーは……なんでこの爺様は年寄りなのに顔がテカテカしてるんだ……写真だけ見たらオレオレ詐欺の元締めと言われても納得する。写真から風を感じる。『今は向かい風です』と言われても納得出来るプレッシャーだ。

「いや、こうやって遺影を見ると爺様はエネルギッシュだったんだなぁと」
「爺様はね……圧力の高い人だったね……」

 分かる。なんかこう……遺影からも圧迫感を感じるんだよね。なんだろう……この、写真が迫ってくる感じ。

「ところでパソコンの中身はどうだった?」
「んー……まだしっかり見たわけじゃないけど、遺書とかそういうのは特に無いかなぁ……」

 まだしっかりと中を確認したわけではないけれど、ついそう言ってしまう。うちは別に金持ちってわけではないし、なによりあの爺様が自分のパソコンの中に遺書を隠すなんてことをするはずもないだろうし……なんとなく確信めいたものがあった。

「んじゃあ母ちゃん、そのパソコンほしいなぁ。クックパッド使ってみたい」

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