10話
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夜と話せばいい。あいつの世界には様々な人間たちがいたんだ。世界も視野も狭いお前には良い薬になるだろうな。それにお前はもっと相手を理解するための努力をしろ。言葉は人と人が分かり合うための近道だ。言葉では伝わらないものもあるが、それは言葉を吐き尽くしたときだけだ」
ではな。そう言って千冬は一夏の肩を励ますように叩き、保健室を出て行った。
――――――――――――
一夏との話が終わった千冬は無人の廊下を歩く。ヒールと地面がぶつかる音だけが廊下を反響する。
千冬のポケットに入っていた携帯電話が震えて、何者からかの電話だと千冬に気づかせた。足を止める。嫌なことにその電話の主が誰なのかも、容易に予想が出来た。自分の唯一の親友。
携帯電話の画面に表示されている番号も名前も確認せず、千冬はその応答に応える。
「……どうした? 束」
嬉しさとめんどくささが同居した複雑な声で、千冬は電話の主に声をかける。
「やっほー! ちーちゃんの大切で唯一無二の親友の束さんだよー!」
その声に嬉しさが吹き飛び、めんどくささが一瞬にして上回った瞬間だ。それなりに長い付き合いだ。こういうテンションの時は大体、嫌になるほどめんどくさい話だということを過去の経験から千冬は理解していた。滑らかな動作で千冬は耳から携帯電話を遠ざけ、躊躇いもなく通話終了ボタンに指をかける。
電話口から呼吸が遠なったことに気づいたのか、束は慌てた声でその行動を引き止める。
「待って待ってよちーちゃん! そんなことしたら束さんのハートが割れちゃうからちょっと待って!」
割と必死なその声色に心底嫌そうな表情で、千冬は再度携帯電話を耳に近づける。本当に嫌な予感しかしないが無碍にするつもりもない。
「……私も暇ではないんだ。さっさと話せ束」
千冬のいらついた声に、トーンの下がった声の束が喋り始める。
「ねぇ、ちーちゃん。ついさっきいっくんと戦ったきーくんのことなんだけどね」
トーンは下がったが、どことなく楽しそうな声の束に不信感が千冬の心に絡みつく。自分とごく一部の身内以外のことを容赦なく切り捨てる友人が、そんな言葉を言ったことに。しかもあだ名のような呼び方に疑念を覚える。
「……月夜のことか? 見ていたのか?」
いつもながらこの通話の相手は、自分に知らせずどこまでも好き勝手にやってくれるのだ。
「そうそう! よくもまあ、あんな存在を飼っていられるねちーちゃん」
その言葉に千冬は自分の顔が険しくなるのを自覚する。
―――……あんな存在を飼っていられる、だと?
「どういうことだ。束」
僅かながらに携帯電話を持つ手に力が入る。言葉に力を入れるつもりはなかったが自然と
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