10話
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からも戦い続ける度にそれを思い出した。
「だが現実は決して優しくない。いつだって私たちに選択を迫ってくるんだ」
どれだけ力を持っても、どれだけ知識を得ても、現実は理不尽な暴力を伴ってやってくる。決してそれからは逃げることは出来ない。
「何もしないで逃げるか、それとも戦って何かを犠牲にすることをだ」
千冬にはその選択肢が常に目の前にあった。だがいつだって逃げるという選択を蹴り続けてきた。それをすれば楽になれた。でも、その選択肢がよぎる度に可愛い弟の顔が頭に浮かんだ。何度も折れかけた膝を伸ばして立ち上がることが出来た。
「だから『私たち』はその選択を決して後悔しないように、信念を持ち、守りたいものを守るために全力を尽くすしかない。それしか出来ないことを月夜もよく理解している」
千冬の掲げた信念は曲がらなかった。『弟』を守るために剣1本で世界覇者の椅子を目指した。金や地位がどうしても必要だったのだ。頼れる親類などなく、年が離れた幼い弟を守るためにはそれしか千冬には思いつかなかった。今なら別の手段も思いつくが、それを後悔したことはない。
「人類共通で言えることだが、覚悟や信念というものは大半の他人から見れば醜いものでしかない。究極的なことを言えば、覚悟や信念と言える主義主張などは過ちや暴挙を隠すための方便でしかないさ」
驚愕、絶望、落胆、悲哀、様々な感情を宿した一夏の表情に心が痛むが、言わなければならないと心を奮起させる。
「だが、そんな醜さを貫くことでしか守れないものも存在するんだ」
強い意志を持って千冬は断言する。
「だから一夏。お前がどんな主義主張や信念を掲げるのはいい、止めはしない。それはとても尊くて苦しい決断だからな。姉として嬉しく思う」
弟を応援するかのように千冬は優しく笑う。一瞬微笑んだあと、すぐに表情を戻す。
「しかし、誰かの主義主張や信念を自分の主観だけで跳ね除けようとするな。それはお前の言う『守るために誰かを犠牲にしてはならない』に反することだ。お前のそれは自分の主義主張のために月夜を否定し、奴を犠牲にすることだ」
喋るのが得意ではない千冬にとって、これが伝えられることの全てだった。他にも伝えられることはあるがやめた。それはきっと、今の一夏には届かないと思ったからだ。
「……千冬姉。俺は、俺は間違っていたのか? どうすればよかったんだ?」
愕然とした表情の一夏はそんなことを呟いた。耳を傾けなければ聞き取れないような小さな声。その声に千冬は答える。
「お前は間違ってもいたし間違ってもいなかったよ。それだけは確かさ」
ここまで喋って具体的な改善策を喋らないのも、姉として大人としても意地が悪い。
「……まずは、そうだな。月
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