10話
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いる。自分を一切勘定に入れないその姿勢を、セシリアは見過ごすことは出来ない。いくら大切なものがあるからって死んでしまえば何も意味がない、と。本人が自覚していない以上、どうしようもないかもしれない。それでもセシリアは言わずにいられなかった。
「鬼一さん、貴方の戦いを否定するつもりはございません……。ですが、ですが! その戦いはいつか必ずご自分を壊してしまいます! ISという少なからず危険性を孕んでいるそれでそんな戦いをしていれば、いつか取り返しがつかないことになってしまいます!」
自分が死んでしまえば、残された者の悲しみは言葉に出来ない。セシリアも鬼一も両親を亡くしているのだから痛いほど理解している。だが鬼一の本質はそんな当たり前のことすら振り切ってしまう。自分で制御することの出来ないそれの終点は破滅でしかないとセシリアは叫ぶ。
セシリアは鬼一の本質を全て知っていたわけではないが、その一端に触れていた。
鬼一の守る守らないの戦いは表面的なものでしかなく、その奥底にあるのは勝つ、負けるの戦いしか存在しないことを。
そんなセシリアの悲痛な叫びも虚しく、鬼一には届かない。鬼一にはセシリアの言葉がどういうことなのか分からない。でも、そんなことよりも―――
―――自分のしたことによって目の前にいる人が泣いている、そっちの方が悲しかった。目の前にいる人を傷つけるつもりなんて、なかったのに。
鬼一にはその言葉がどういうことなのか分からない。でも、その言葉には確かな痛みが宿っている。だから鬼一は、安心させるようにまた笑う。満足に動かない両腕を動かしてセシリアの顔を包む。一切の偽りもなく、本心からその言葉を紡いだ。
「……『ごめんなさい』、セシリアさん」
理解者であり友人のその言葉にどんな意味があったのか、セシリアには深くは分からなかった。だけど、自分のことよりも他人のことを優先したその優しい言葉にセシリアは泣いているような、笑っているような複雑な表情になる。この友人を止めることは出来ないことを悟ってしまったからだ。きっと、壊れるまで戦い続けて、そして、壊れることで、止まることの出来る存在であることに気づいてしまった。
壊れてしまう前に、取り返しがつかなくなる前に必ず止めてみせる。
セシリアは、そう心に決めた。
自動ドアが開く機械的な音がする。
「……お邪魔だったかしら?」
病室に入ってきたのは事後処理を終わらせて様子を見に来た楯無だった。その表情は楽しそうに笑っている。
その声に鬼一とセシリアの2人だけの時間が現実に戻る。
「―――たっちゃん先輩?」
「―――更識生徒会長?」
どこか間の抜けた2人の顔。楯無に向けられた視線がそれぞれ正面の相手
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