10話
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そんなことは些細なことだと言わんばかりにセシリアは迷わず鬼一をベッドに押し倒した。鬼一にそれに抵抗する力などない。
鬼一の両肩に置かれたセシリアの両手。その手が震えていることに鬼一は気づいた。そして、なんでセシリアが今にも泣きそうな顔をしているのか分からない。ただ、心が痛みを訴えているような気がした。
「……セ、シリア、さん……?」
鬼一を見下ろしているセシリアに困惑した鬼一の声がかけられる。だがセシリアはそれに応えない。応えられない。
痛みを、怒りを押し殺したセシリアの絞り出すような悲鳴じみた声が鬼一に降り注ぐ。
「貴方はっ……貴方はっ、ずっとこんな戦いを繰り返していたのですか!? ……こんな、こんな自分を死なせてしまうような戦いを!? ご自身で、気付くこ、ともなく……?」
勢いのあった言葉だったが最後の方は萎むように小さくなり掠れていった。セシリアの瞳から蒼い雫が溢れ鬼一のシャツに染みを作る。
セシリアは鬼一の戦いを理解しているようで理解していなかった。鬼一の戦いとセシリアの戦いというものは似ているようで本性は別物だ。
どちらも何かを得るためにたくさんのものを犠牲にし戦い、勝ち得てきた。確かにセシリアもいざというときには自分の命を賭けて戦うことが出来る。だが、その選択権は常に自分が持っている。戦う権利もそれに対して何を差し出すのかも全て自分で考え、少ない選択肢の中から選び出しているのだ。セシリアはどんな戦いであれ、最終的には自分に選択権が与えられていることを自覚している。最悪、逃げ出す権利すらもあると思っている。
だが、鬼一は違う。
どんな戦いであれ、鬼一にはその選択肢がないのだ。文字通り全てを賭して戦うことしか出来ない。逃げ出すこともしない。全ての戦いを鬼一は受け入れ、自分の身を差し出し続けてきた。義指がそれを表していると言ってもいい。恐怖や痛みから逃げ出そうとしない。それを出来るにも関わらず。その権利があるにも関わらずだ。
何を犠牲にするのか? そこには必ず自分が入っている。
何を守るのか? そこには自分が入っていない。
セシリアは鬼一の戦いを、ブレーキが壊れた車でアクセルをベタ踏みするような危険な代物だと断じる。最初から選択肢がないことに悲しさを感じる。ただ自分を傷つけるだけの戦いにしか見えなかった。
それを自覚しているならいっそのことよかったかもしれない。自覚した上での行為ならセシリアは何度ぶってでもそれを止めていたかもしれない。でもそれはできない。
だけど鬼一はそれを知らない。誰よりも自覚していなければならないことを自覚していない。ISという危険性のある代物だからそれが表面化してしまった。
―――人として壊れてしまって
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