10話
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、鬼一さんですか……?」
その言葉にどんな意味があったのか鬼一には分からない。きっとセシリア自身も分かっていないのだろう。じゃなければセシリアが不明瞭な質問をするはずがない。
セシリアは今の鬼一と一夏戦で見せた鬼一があまりにも違いすぎて結びつかなかった。比喩でもなんでもなく別人としか思えない。一夏戦で見せた顔と今の顔はあまりにも違いすぎる。
「……僕は、僕ですよ」
そこで初めて鬼一は笑顔を見せた。あの夜セシリアだけに、友人に見せた笑顔が浮かぶ。IS学園ではセシリア以外には誰にも見せていない表情。安堵の意味合いが強い笑顔。
「……良かった……」
その笑顔にセシリアは心から安堵したのか、小さくため息を吐きながら目を伏せた。セシリアのそんな表情に鬼一は更に深い罪悪感に包まれる。
「……すいません、セシリアさん」
鬼一の謝罪にセシリアは小さく、ゆっくりと何度も首を横に振る。ただ今は安心していた。目の前の人が大丈夫だったことに。
だがそんな安心も、一瞬にして砕かれた。
鬼一の次の言葉を受け入れられなかった。
「……セシリアさん、僕は、なんでこんな場所にいるのでしょうか?」
「……えっ?」
セシリアの思考が凍りつく。今、この人はなんて言ったのか? 耳には入ってきたが、そのまま頭には入らず通りすぎていく。
―――あんな自分を追い込むような戦いをして、それを思い出せない。
―――あんな自分を壊すような戦いをして、それを思い出せない。
―――あんな自分を殺すような戦いをして、それを思い出せない。
もしかしてこの人は、あんな戦いを理解していないまま過去に何度も何度も繰り返したのだろうか? その危険性を知らないままここまで走ってきたのか? いや、ISだからこそ付き纏う危険性をこの人は理解していない。そして本当に覚えていないんだ。じゃなければこんな真似はできるはずがない。
セシリアは震えた声で鬼一に問いかける。
「……嘘、で、ございますよね? 鬼一さん?」
出来ることなら否定して欲しかった。出来ることなら嘘だと言って欲しかった。そんなことがあるはずがないと。
そんなセシリアには気づかず鬼一は苦笑しながら否定する。
「いえ、集中しきっていると、その戦いが思い出せないことがよくあるんですよ」
その言葉にセシリアは衝動的に右手を振り上げ―――
―――鬼一の左頬を平手打ちした。
左頬を左手で押さえながら、鬼一は呆然とした表情になる。今起きた出来事が理解出来ないみたいだ。
自分のしでかしたことを否定するように、セシリアはその右手を左手で押さえる。ジンジンとした熱が右手に宿っている。
だが、
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