10話
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いだ。眼鏡がないこともそれに拍車をかけていた。ただ、友人であり理解者の声を忘れることはない。
セシリアの細く、白い手が鬼一の左手を触れる。鬼一の左手についている手袋は外されてしまっているため義指が剥き出しになっているが、そんなことは気にせずセシリアは両手で包み込む。その冷たい手に鬼一の意識が僅かに戻ってくる。
「……そうです、セシリア・オルコットです鬼一さん」
その声に鬼一は途方もない罪悪感に苛まれた。優しさの中に悲しさが混じっていることに気づいたからだ。そして、その悲しさが何から生み出されていることも知っている。見られたくない義指を見られた感情など一瞬で吹き飛んだ。そんなことよりもこんな悲しい顔をされる方が鬼一には遥かに辛かった。自分が傷つけてしまったものを目の前で見たときの衝撃は大きい。いつまで経っても慣れない。
熱い呼吸を繰り返している鬼一を癒すように、セシリアの右手が鬼一の背中に回される。ゆっくりとした動作で背中を擦る。その冷たい右手が今は心地いい。
少しずつ、少しずつ鬼一の呼吸が落ち着いてくる。落ち着くに従って少しずつ意識の輪郭を取り戻していく。自分が何をしていたのかはまったく思い出せないが、ただ、こんな顔をさせてしまうほど愚かなことをしてしまったのだけは理解できた。
「……ありがとう、ござい、ます。セシリア、さん……」
掠れた声で、今は感謝することしか出来なかった。それしか、出来ない。それが心苦しい。
「……喋らないでください。今もお辛いでしょう? お飲み物は飲めますか?」
その言葉に鬼一は頷く。喉が異常なまでに乾いている。
鬼一の頷きに、セシリアはテーブルの上に置いておいたミネラルウォーターの中身をガラス製の器に注ぐ。その器を左手で持ったセシリアは鬼一の口にまで添える。
「ゆっくり飲んでください」
セシリアの言葉に従って口をゆっくりと開き、震える右手でセシリアの左手を握ってガラス製の器を傾けて中身を口に含む。
緩慢な動作でゆっくりと、ゆっくりと時間をかけて水を身体に染み込ませる。喉を通り、体内に広がっていく冷たさが熱を取り除く。柔らかな味わいに身体が喜んでくれていることがよく分かった。
飲み終えた鬼一はセシリアの左手から手を離す。左手の冷たさが少し名残惜しかった。
カタン、と音を立ててセシリアが器をテーブルに置く。
「鬼一さん、少しは楽になれましたか……?」
セシリアの心配混じりの声に幾分ハッキリしてきた鬼一が応える。
「……はい、大丈夫です。どうやら、ご迷惑をおかけしたみたいですね」
安堵の混じった表情に変わったセシリアを見て、鬼一も安心する。だが罪悪感はなくならない。
「……今の鬼一さんは、本当に
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