第四章 火影の夜窓
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が止み、画面が動画に切り替わる。
画面の向こうから寝巻き姿の陽介が、真剣な眼差しでこっちを見ている。
「陽介!」
苦しそうに咳をしたあとカメラに向き直り、
かすれた声で、が、しっかりした口調で陽介が話し始めた。
「祐未、元気にしてるかい。
今日は僕の誕生日。そして僕たちの初デート記念日だよね。
なのに、こんな格好でごめんよ。
スライドショーは楽しんでもらえたかな。
写真はどれも、僕が二年間見つめてきた祐未の笑顔たちです。
たまに変顔も混ざってたと思うけど、
それもまた僕にとっては愛おしい祐未の顔なんだ。
この先もずっと、祐未の笑顔が見られると思っていたのに…。
君がこの動画を見ているということは、
僕はもうこの世にはいないってことになるんだな。残念だ…。
こんな形で君に会えなくなるのはすごく辛いよ…。悔しいよ…。
でも、僕がいなくなっても心配はいらない。
祐未は誰からも愛される、素晴らしい女性だからね。
いい出会いが絶対待ってるさ。
祐未の幸せは僕の幸せでもあるんだ。
だから僕に遠慮せず、どうか新たな幸せを掴んでほしい。」
間を置いてから再び話し出した声は、
少しだけトーンが明るかった。
「あと、この動画は、再生できるのが1回きりなんだ。
こんなみすぼらしい姿を二度と見なくて済むように、
再生後は自動的に削除されるよう設定してある。
他の人に見られたくないしね。
この二年間の君の笑顔は、僕だけのものだ…。
祐未の輝く笑顔がこれからもずっと絶えることのないよう、
心から願う。
最後まで、ご視聴ありがとう…。」
言い終えてからも、陽介の目はカメラをじっと見据えていた。
祐未はその瞳の奥に、彼らしい精一杯の強がりを読み取っていた。
陽介の顔が画面からフェードアウトすると、
入れ替るように白い文字がすーっと浮かび上がってきた。
『追伸… こっそり祐未の子供に生まれ変わってやろうかな。』
その一文を目にして、泣き濡れた頬がわずかにほころんだ。
「あなたって人は…、どこまでもスマ…」
言葉に詰まると、祐未は両手で顔を覆い、泣き崩れた。
単発的に鳴り響くロケット花火の音。
その火影が障子窓のシェイドを透かして、
むせび泣く祐未の姿を、ネオンサインのように浮かび上がらせていた。
瞼に眩しさを覚え、祐未は布団の中でゆっくり目を覚ました。
時計を見るとちょうど7時になるところだった。
テーブルにはクリームの付いた皿とビールの空き缶が寝そべっていた。
着替えと洗面を済ませ、鏡に向かう。
アイシャドーとアイペンシルを駆使して、
泣き腫らした瞼がどうにかマシになった。
鏡の奥に昨夜のことがぼんやり浮かんでくる。
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