第六話 仮面舞踏会だよミューゼル退治 そのA
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り上げるのは、ブルーノが俺の名前で借りてくれた偉人伝数冊に目を通し、天才フリューゲルの活躍するフットボール映画を見終わって屋敷に帰りついた時にもまだ不可能だった。
実行に移せたのは家宰様──ロイエンタール男爵の勧めで翌日から一週間をブルーノの実家──クナップシュタイン男爵家の分家であるブルーノの実家は帝国騎士としても豊かな部類であり、荘園も持っている──の別荘で過ごしてからであった。
そして、俺は気づいていなかった。
少年期独特の熱血と正義感は俺の中に数日楽しく過ごしただけでは消えないほどの怒りを、制御することなど到底不可能な本物の怒りを刻み込んでいた。
本物の怒り、俺自身の計画さえも捻じ曲げるほどの怒りを。
「驚きました。大帝の騎士の家がここまで落ちぶれていようとは。正直、がっかりです」
登山とフットボールと釣りの日々を終えて屋敷に帰り、休養を勧めてくれた家宰様のところに挨拶に──ミューゼル家への憎しみを植え付けに──出向いたときも、俺の中に本気の怒りのかけらは残っていたようだ。俺は自分がブルーノはもちろん、家宰様の従者のヘスラーがのけぞるほどの声を出したことに驚いていた。
「驚くほどのことではないよ、アルフレット君。騎士の血は名門の血には及ばない。零落する者がいてもおかしくはないさ。惜しい事ではあるがね」
思わず大声を出してしまった俺に家宰様は軽く笑って言った。
「…しかし…あの惰弱はひどすぎます」
怒りに続いて口をついて出てきた反論の言葉にも、俺は驚愕を禁じえなかった。これも少年時代に特有の衝動なのか。あるいは悪魔の悪戯か。
「…家宰さまのお力で救うことはできないものでしょうか。家宰さまもかつては同じ『大帝の騎士』、騎士の誼で」
考える間にも、俺の口は灼熱する心の命じるままに言葉を紡ぎだしていた。
少年特有の同情心が湧きあがってくるのを感じて、俺は慌てて心に制動をかけようとした。まずい。これでは憎しみではなく同情を植え付けてしまう。話の方向性を変えなければ。だが、後ろ暗い企みの力では少年の体に流れる熱い血を、正義感を止めることはできなかった。
「君にはミューゼル家に肩入れする理由はないはずだがね…」
「亡きご先代が、ご令嬢がお気の毒です」
またしても声を大きくして、俺は言っていた。
「セバスティアンの息子に決闘を申し込まれそうなことを言う…正直言って難しいな。セバスティアンとは古い知り合いではあるが、彼はおよそ経済人として向いているとは言えなかった。もっと堅実な生き方を選ぶべき男だった」
「……」
正義感と同情心の赴くままに言葉を吐き出した後、呼吸を整えながら俺は自分の言葉の引き起こした現象を前に愕然としていた。取り返しのつかないことを言ってしまった。
動揺を押し
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