第19話『会得』
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その後、彼女はスケッチを描き始めた。
同伴者兼話し相手兼ボディーガードの俺は横で見させてもらっていたのだが、あることに驚愕する。
絵が上手すぎる…と。
描かれる一線一線がオーラを持っていた。
これはもう『才能』と呼べるレベルで上手い。
「絵、上手だね」
「昔から絵を描くことが大好きだったから」
『好きこそ物の上手なれ』とは、まさにこのことだろう。
羨ましいな才能って。俺も欲しいな〜。生涯で普通以外経験無いしな…はは…。
「練習すれば誰でも描けますよ」
「そういうもんなの?」
「あ、じゃあ見てて下さい。この川の場合はこうやって──」
ガサッ
不意に後ろで小さく草木が揺れる音が鳴った。
ホントに微かな音だったので、本来なら気にするほどでもなかったのだが、しかしこの時振り返っていなかったらどうなっていたのだろうか。
「ん?」
俺は無意識の内に振り返った。
そして、その目の前の光景を見て、サーッと血の気が引いたのがわかった。
嘘だ…何で…。
「ちょ、戸部さん!」
「そしてあそこの木は・・・って、ん? どうしたんですか?」
未だにスケッチに没頭しながら、迫る危険に気づかない戸部さんに、非常事態を伝えようとする俺。
「大変だ。今すぐここを離れよう!」
「どうしてです?」
俺の顔を見ながらそう訊いてくる戸部さん。
クソ、この状況をどう伝えれば良いのか。彼女にはあまりショックを与えたくない。
「いいからこっちに!」
「あ、ちょっと待ってください、まだ片付けが・・・」
俺は彼女の手を無理矢理引っ張り、この場所から離れようとする。だが遅かった。
──アレは、俺たちに気づいてしまった。
「だからどうして…」
片付けが終わった戸部さんも後ろを向いてしまう。そして俺と同様、青ざめた顔をした。
「え、嘘、何で…?!」
「俺にもわかんないよ…!」
俺たちの見つめる先──そこには、口に血を纏い、獲物を狙う眼をした大型の熊がいた。
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