第19話『会得』
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きた彼女の言葉で、俺の思考は遮断される。
「え? 危ないんじゃないかな…」
俺は思ったことを口にする。
だって何か危険な動物とか出たら困るし、もし遭難でもしたらそれこそ皆に迷惑掛かるし…。
「でもこの先に綺麗な川があるんです。だからちょっと、ちょっとだけ行ってみません?」
戸部さんは値切るかのように俺を説得し始めた。
ここで粘るのも面倒だし、ちょっとって言ってるから・・・
「あんまり遠くに行かないならいいけど…」
「ありがとうございます!」
戸部さんは満面の笑みを浮かべて喜んだ。あまりにも輝く笑顔に、俺の心臓は少し反応してしまう。
にしても、どうしてこんなに喜ぶのだろうか?
*
ザーーーーーー
川の流れる音が森中に響き渡る。
森に入って数分で、彼女の言う川には着いた。底が透き通って見えるほど、透明度の高い清流だ。なるほど、確かにこれは綺麗である。
「水が透き通っている…」
「さすが大自然です!」
俺と比べて、異様に彼女のテンションが高い。
マジで何で? 川に来ただけだよ?
「さて、始めましょう」
「ん?」
そう言った戸部さんは、鞄からスケッチブックと鉛筆を取り出した。これって・・・
「もしかして…スケッチ?」
「はい、せっかく山に行くなら、大自然を描こうかと思って持ってきたんです。そして親に訊いてみたら、この川のことを教えられたんですよ」
ふむ、確かにこの風景はかなり絵になりそうである。透き通った清流の中に、荒々しく存在する大きな岩。うん、あの上に立ってみたい。
まぁその欲望は置いといて、たった今 1つの疑問が生まれた。
「そういえば、俺が来た意味ある?」
そう、俺の存在意義だ。
ただスケッチしたかったのであれば1人ですればいい。なのになぜ俺を誘ったのか?
「単純に1人だとつまらないからです。本当は親についてきてもらうつもりでしたが、偶然三浦君と会ったので、ついでにお話したいなと。後は…危ない時には助けて貰おうかなって」
「え、何その最後の理由」
つまらないとか、お話したいという理由はわかるが、助けて貰おうってどういうことだ? あ、川に流されたとか、遭難した時とかってことかな? いやでもその場合、俺は役に立てない気がする…。
「まぁ、一番はもっと仲良くなりたいなって」
また、戸部さんはにっこりと微笑んだ。そう言って貰えると、照れるけど嬉しいな。
人から嫌われず、むしろ良い印象を持たれてるって感じる時ほど、コミュ障にとって喜ばしいことはない。
あ、やべ、涙出そう。
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