暁 〜小説投稿サイト〜
俺の四畳半が最近安らげない件
6畳の部屋
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
「結論を申し上げると、多分借りない。その上で色々と聞きたい事が、というか言いたい事がある」
俺がそう言うと、生真面目そうな眼鏡の担当者が、俺からふいと目をそらした。何を言われるのか、もう分かっているのだろう。ていうか今までもこの物件に案内する度に言われ続けていることだろう。
「六畳間っつったよな」
「六畳間です」
目をそらしたまま、にっこり笑う。


「嘘つけ!四角いんだよ、異様にな!!」


完全に正方形の部屋に、6枚の超変な縮尺の畳が縦に3枚、横に2枚置かれている。すごくモヤモヤする光景だ。
「考え過ぎですよお客様。丸や三角の部屋なんて使いにくいじゃないですか」
「真四角!この部屋、すごい真四角!!絶対にこれ元々四畳半だろ!!」
「畳が6枚敷いてあるじゃないですか。だから六畳です」
なにこれ。開き直られているのか?
「こんなおかしいタテヨコ比率の畳があるか」
「最近は結構ありますよ、こういう需要。だから量産されています」
「…それを敷いて四畳半に住まう奴は悲しくならないのかな」
2列3段にきっちり敷かれた妙な六畳間を眺めていると、なんだかやるせない気分になった。
「これ普通に四畳半として貸し出したら駄目なのか」
眼鏡は眉間に指をあてると、そっと玄関脇にしゃがみ込んだ。もう接客の態度じゃない。ぶっちゃけトークの構えだ。
「今どき、学生だって四畳半なんて借りませんよ。たとえ風呂とトイレがついていようとも」
貴方だって六畳以上、八畳なら尚可って言ってたじゃないですかと眼鏡が呟いた。
「ちなみに広告に『六畳』と書くと宅地建物取引業法に引っかかって、超怒られます。なので六畳間をお探しのお客様個々にご案内する形でこの物件をご案内しているのです」
「騙される奴いるの?」
「私は見たことないですね。最近じゃちょっとしたネタ扱いです」


―――うわ言っちゃったよ、ネタだって。


「うちの社でもお荷物物件でしてね。委託なら売ってるフリして完全シカトなんですが、自社物件なのが頭痛いところで」
上からは契約まとめろとせっつかれるし、客は6畳以上は譲れないというし。そしたら畳6枚敷いてやるしかないじゃないですか。と奴は内ポケットから煙草とか取り出し始めた。なんだその解決法。こいつ真面目そうな外見に反して意外とテキトーな性格なんじゃないか。さっきから色々言っちゃいけないことをぶっちゃけるし。
「外国人に貸すとか」
「駄目なんすよ、この棟の持主が外国人に貸すなと」
「…自社物件じゃないの」
「分譲ですから」
「なんでそういうややこしい事するんだお宅の会社は」
「それは私が聞きたい。社長を小一時間、問い詰めたい気持ちは私も同様です」
……こいつ、何で俺をこの物件に案内したんだ。


「そこでです、私
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ