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Everlasting oathーブラッド・オンラインー
第1章ー想いを捨てるー
昔の出来事
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を返してよ!』

 とは言え────

 "昔の事だから"、素っ気無い一言で忘れられる筈がないんだ。脳裏(のうり)に焼き付いた両親の『肉片』、『血』、『前頭葉』、『頭蓋骨』、『肋骨』。

 普通の子供の人生では目にするモノではない人間の内側。事故から時間が経つにつれて、孤独でいる時間も増えては心の奥に閉じ籠っていった。

 知らない大人に、この子をどうすると勝手に話を進められ、色々なモノを失ったばかりの俺を施設へと預けようとしては知らない子供達と交流を図る。

 構わないで欲しい、誰とも話したくない───そんな時だった。

「俺がその子を引き取る」

 無気力に立っている自分に近寄って来た男は心なしか母さんに似ていた。

 幼い圭介の小さな手を引っ張り、何処かへと連れて行こうとするが、圭介は、また勝手に決め付けるんだと心の中で呟いて無理矢理その場に(とど)まった。

 いつものことだ。自分がこうやって動かないでいたり言うことを聞かないと相手は諦める。言うことの聞かない糞餓鬼と判断して。この男もそうだって思ってた。なのに、立ち留まって数秒、数分、数時間、と経っても居なくならない。

 気付けば頭に手を乗せて耳元で何かを(ささや)いている。

「俺はお前の母さんに似てるだろ?当たり前だよ、俺とお前の母さんは兄妹なんだから。お前は強いな、自分の親が亡くなっても泣かないんだね。………姉さんは返って来ない。お前の父さんも返って来ない。………姉さんそっくりだよ、そうやって泣かないようにしてる所。…………もう、寂しい思いをさせないから………おいで」

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 男は俺の手を引いて連れて行く。留まろうとしていた自分の足は自分の意志で前へと、一歩一歩踏み出して行く。目からは暖かく透明な液体が溢れ出し、目の前が(かす)んで良く見えない。その所為で地面につまづくと男がおんぶをしてくれた。

 背中で泣いていた自分に絶えず話し掛けて来る。昔、母さんとよく喧嘩をしていた事。俺が生まれる前、父さんと釣り勝負をして負けた事。そして、俺が生まれた時の事を。

「叔父さん」
「なんだ?」
「いや……なんでもない」

 感動的なシーンだと言うのにアホ面をしながらコーヒーに角砂糖をぼとぼとと投下している姿を見ていると感謝の言葉を言う気が削がれてしまう。

 密かに心に隅で言っておこう、ありがとうって。

「あ、今日は何の日か分かってるか?」
「え?」

 今日は何の日だっけ…………建国記念日は一昨日(おととい)に迎えたばかりだけど………他に何かあったか?

「今日はお前の誕生日だよ」
「あ、本当だ。忘れてた」
「自分の誕生日くらい覚えてろよ………おめでとう。圭介」

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