第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:柩の魔女
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浮遊城の最基部。攻略の前線が折り返しを過ぎた今でもなお、此処には暗く湿っぽい空気が淀む。絶叫が涸れ、先に進むことを決意した者が去り、その残滓が陰鬱な天蓋の陰に広がっている。とうに攻略された第二層にさえ出向けない彼等には、如何なる心情があって今に至るのか。それを思慮する者も既にこの浮遊城にはいないのかも知れない。
もっとも、この《はじまりの街》の住人が上層に進出したところで立ちどころに快活になるわけでもなく、むしろその上層に拠点を置く攻略プレイヤー、数値的なステータスを得た彼等に心のない罵声を浴びるのが関の山というもの。こうならないうちに行動できたところで、《傲り蔑む》か《怯え竦む》か、その二択にしかならないのだろうが。
死の恐怖という枷に囚われた弱者。
ステータスという数値に酔った強者。
ただ成り行きに従うだけの弱者。
傲り昂って在り方を変えた強者。
底には鬱屈とした絶望が淀み、上澄みには醜悪な我執が漂う。酷く薄汚れた世界。
多くがその二極に分化されてしまう。だからこそ彼女にとって、この世界は乾涸びて見えていたのだろう。
茅場晶彦。この世界――――アインクラッドを創造した男は、この世界を《鑑賞》の為に生み出したと語った。だが、これではあまりになっていない。足早に街の中心を目指しつつ、内心で幾度目かも知れない不満を唱える。
こんな色の乏しい殺風景な世界を鑑賞して楽しんでいるというならば、とんだ肩透かしだ。
これほどの舞台を用意していながら、登場人物の個性が間尺に合わない。それだけで、茅場という男への苛立ちは更に募っていく。結局のところ、自らと彼の、《作者》と《観覧者》という根本的な差異は埋めようもないものだったということだろうか。或いは、そんな事にも気付かずに、彼からほしいものだけを無条件に与えられたと勘違いしていた自分に対しての苛立ちなのか。湧き起こった感情については判断の仕様がない。
それでも、まだこの世界には綺麗なままで残っているものがある。
若しくは、この世界に触れたことで輝きを新たに得たものがある。
彼女にはそれだけが至福だった。この腐臭さえ漂うような鉄と岩の棺桶の中で、その宝石にも似た魂の輝きは、まさに得難い宝物だったのだ。
当然、そんな魂の持ち主が歩んだ道は決まって美しい。いつまでも色褪せない名作にも劣らない《生きていたストーリー》は、思い出すだけでも幸せになれる。しかし、この先に向かえば更に満たされる。彼女の見届けた物語の主人公たちの終焉が刻まれた場所――――多くのプレイヤーにとって、この世界における死の記憶がひしめく広間、《黒鉄宮》。
転移門広場から一直線の大通りで繋がった荘厳な宮殿調の建築物へ向かう者や、逆に黒鉄宮を後にする者の表情は皆一様に暗い。しかし、その
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