五十四話:全て遠き―――
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愛する者のためと言いながら。
【世界は変わらず闘争に満ちている。人が人を愛し、憎み続けている】
終わらない闘争。どちらが先かと言われれば卵が先か鶏が先かで意見は割れるだろう。だが、しかし。一つだけ分かることがある。人が闘争を終えられない理由が。それは誰もが誰かを愛しているから。愛が憎しみを生み出す元となり、憎しみが愛へと移り変わる。人類史とはそうして紡がれてきたのだ。故に―――
【間違えるな、愚か者。世界が産み落とされた時から世界は―――憎しみに満ち溢れているッ!】
愛なき世界に闘争はないし、闘争なき世界に愛など存在しないのだ。
彼らの願いもまた矛盾し、叶うことなどない願いだったのだ。
「それでも…それでも…ッ!」
【ああ、願いたければ願えばいい。まあ、型を持たぬ膨大な魔力は世界にとって毒のようなものだ。願いを叶えても全ての人類を殺して闘争なくすぐらいが関の山だろうがね】
もはや、そんなガラクタには用はないといわんばかりの態度で男を突き放すスカリエッティ。真に願望を受け止めるべき器はここには存在しないし、彼らに渡すつもりもない。初めから騙すつもりで用意しておいた物を渡しただけだ。冷静に考えれば何の意味もない徒労かもしれない。だが、その徒労こそがこの甘美な絶望を演出してくれたのだ。無駄なことに時間を割いた価値は十二分にあるというものだ。
「私は…私は…!」
【全てを滅ぼして願いを叶える。それもまた一つの選択だ。私としてもそれはそれで楽しみがいがある】
世界を滅ぼす代償に願いを叶える器を前に立ち尽くす男。スカリエッティは実に楽しそうにささやきかける。悪魔との契約、願いと引き換えに全てを貪り尽す詐欺のような取引。その契約を前にして男は突如として雄叫びを上げる。
「―――おおおおおおっ!!」
まるで剣を振り上げるように杖を掲げ、ただ一直線に聖杯に振り下ろす。驚き声を上げるなのはのことなどもはや眼中にないように狂ったように聖杯を打ち砕いていく。次第にその足場が崩れ去り自身諸共に落ちていきながらも彼は一心不乱に悪を砕き続ける。遂にその姿が完全に闇に消えてからも狂ったような雄叫びだけが響き続けていた。そう、彼は自らの宿願を捨て―――世界を取ったのだ。
【ふは…はははははは! 流石は正義の味方だ。己の全てを捨ててでも手に入れたかった悲願よりも世界を取るか! 傑作だ! そうまでして求めたものを親の仇のように壊すとは。ああ……これだから生命は愛おしい…!】
男の死に様の輝きにうっとりしたような声を零すスカリエッティ。これがこの醜悪な芝居を演出した人間の口から出ているのだからおぞましい。まるで神が信仰心を試すために敬虔な信者に試練を与えその信者
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