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火影の夜窓(ほかげのやそう)
第二章 水入らずの旅
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っていて、
一人分の布団が敷かれていた。
「冷蔵庫はコンセントを抜いてありますので、
 使う時に差し込んでください。では、ごゆっくり。」
女将はそう言うと、テーブルに鍵を置いて出て行った。
(ああ、洗面台の下に冷蔵庫もあるんだ。ビールあとで冷やしておこうかな。
 はぁ、いい部屋ねぇ。くつろげそう。)
さきほどの古民家喫茶と同じ匂いがする。
《お洒落だよね。中がこんなだとは思わなかったよ。》
畳部屋の押入れを覗くと、バスタオルと部屋着が入っていた。
(あ、そうそう、今のうちにお風呂入っちゃおうか。)
とそこへ「すみません、お邪魔します。」と声がした。
戸を開けると、女将がお盆に何かを乗せて部屋に入ってきた。
「お赤飯を炊いたんです。
 少しですけど、召し上がってくださいな。」
(ああ、さっきの湯気はそれだったんだ。)
浅いお椀に盛られたつやつやのお赤飯。
その上にはごま塩、きんぴらごぼう、南天の葉が添えられている。
「うちは片泊まりなんで、本来は夕食をお出ししないんですが、
 今日はお祭りだから特別に。」
「ありがとうございます。
 そういえば、さっき花火が上がってましたね。」
「ええ、夜は花火大会もありますよ。祭りには行かれるんでしょ?」
「え? ええ…」
「ん…まあ、…部屋からも花火は見えますけどね。」
祭りを見物しに来た客ではないらしいとわかると、
女将は少し怪訝そうな顔で部屋を出て行った。

携帯で調べてみてようやくわかった。
今日は川瀬祭の日だったのだ。
有名な秩父夜祭は以前から知っていたが、
梅雨が明けたばかりのこの時期に、
夏祭りがあるとは思ってもみなかった。
小中学生が主役の祭りだそうで、
今日は昼から市内を山車が巡行しているらしい。
夜になると屋台4台、笠鉾4台が秩父神社に集まり、
高さ6メートルの柱を立て、スサノオを迎える神事が行われるのだという。
それが終わる頃、盛大な花火大会が始まり、
深夜には若者が荒川の水を汲んで町内に撒いて清める
「お水取り神事」も行われるそうだ。
祭りは明日まで続くらしい。
お裾わけの赤飯を頬張りながら、祐未は少し迷っていた。
(祭り会場は相当な人出だろうな。
 今夜は陽介の誕生日を二人きりで祝いたいんだけどな。)
《せっかくだから、行ってみようよ。》
(そう? …そうね。
 考えてみれば、陽介の誕生日にお祭りだなんて、嬉しい偶然よね。
 じゃあ、お風呂はどうする?)
《祭りがあるんなら、夜遅くなると、家族連れで混むんじゃないかなぁ、風呂。》
(そっか。じゃ、今のうちに入っちゃおっか。)
祐未はバスタオルを脇にはさんで、
カラになったお椀を1階の台所口まで下げに行くと
そのまま部屋には戻らず、貸切風呂へと向かっ
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