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火影の夜窓(ほかげのやそう)
第二章 水入らずの旅
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は食後にお持ちしますか?」
「いいえ、全部一緒で結構です。」
「かしこまりました。」
女性がテーブルから離れると、祐未はすかさず、
辺りの風変わりなインテリアを携帯カメラに収め始めた。
(なんか、変わってるけど落ち着ける、このお店。)
《長居してしまいそうだね。》
お冷で一息入れていると、早速一品運ばれてきた。
「お待たせしました。アイスココアです。」
そのグラスもまた、ちょっと個性的だった。
大きな飲み口から下へ向かうほど平たく潰れ、くびれている。
(こういうお店って、食器にもこだわりが見えるよね。)
《うん。見てごらん。キッチンの棚にも
 年季の入った和食器がいっぱい並んでるよ。》
(ほんとだ。)
ストローで吸い上げ、勢いよくココアを喉に流し込む。
(うーん、ミルクチョコが冷たくて美味しい!)
《僕にも飲ませて。》
(いいわよ。お好きなだけどうぞ。)
グラスのココアが半分になった頃、
今度は熱々のミックスピザが運ばれてきた。
祐未はピースの尖った先から、ほふほふ言いながら頬張る。
(うーん、このチーズの塩気がたまらない。)
《汗で失った塩分がこれで補えるね。》
(ほんと、体が欲してたみたい。どんどん食べれちゃう。)
いよいよお待ちかねのプリンが来た。
白いガラスの器にたっぷり注がれたカラメルソース。
その中央にそびえ立つ、ふくよかなプリン。
“す”が入った側面に、素朴な手作り感が出ている。
《風格があるなぁ、このプリン。祐未、食べないの?》
(だって、なんか崩すのもったいないんだもの。)
《いいから、食べて感想を聞かせて。》
(わかった。)
一口すくって食べてみる。
舌の上でひんやりした柔肌がとろっと崩れ、
カラメルの苦味と混ざりながら、するすると喉をすべり下りる。
(ああ美味しい。期待通りの味。)
《ほんと? 僕にも食べさせて。あーん。》
すくったプリンを陽介の口もとへ運ぶ。
《うーん、美味いっ! ほろ苦い甘味が後を引くなぁ。》
キッチンから注がれる視線をよそに、
祐未はいつまでもごっこ遊びに浸っていた。

会計を済ませると、オーナーが二冊のまめ手帳をくれた。
見れば表紙に、手描きの招き猫。
どうやら二冊とも手作りのようだ。
これは嬉しい。店への愛着が一気に増した。
(寄り道して正解だったね。)
《うん、またいつか来ようね。》
祐未は満足げに頷くと、店を後にした。
(さあ、4時を過ぎたから、宿へ向かいましょう。)
店の横道をまっすぐ歩いて行くとT路地に突き当り、
そこを右折した時だった。
背後で突如花火が打ち上がった。
バン、バンバンバン!!
間を置いて、同じリズムで三回。
すると、向こうから歩いてきたおばあさんが、
空を見ながら声をかけて
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