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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
第四四話 背水の陣
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どの権益は喉から手が出るほど欲しいものだ。
 日本を壊すにはこの上なく便利で、しかも金の生る木なのだから。外国に売るもよし、自分で甘い蜜を啜るもよし――そんな人間に唯依を任せては散々利用された挙句、まともな最期なんて望むことすら出来なかっただろう。

「あの男を彼女の婚約者にしたのは適切だったでしょう。――身分違いの恋というのはメディアがさぞ大喜びで吉報として大々的に報じるでしょうし実態はどうあれ、という敵の手段を逆に利用できた。
 災いを好期に出来たと言えますが――お忘れなくこの問題に関しては“貴女様も例外ではない”。」
「……わかっているわ。それが日本という城を崩す蟻の一穴であることも」

 痛い指摘をついてくる。その指摘自体は恭子自身痛いほど痛感している事実だ。
 女当主、その存在はそもそも征夷大将軍を担いたくない嵩宰家によって祭り上げられた軽い神輿でしかない。

「逆に言えば、貴女様を組み伏せば五摂家の当主の座に一気に近くなる―――貴女様と篁の姫君、違いは金か玉座か……その程度なものです。
 壊すにしても守るにしてもこれほど手っ取り早いものは早々ない。」
「はっきり言うのね。」

「持って回った言い回しが好みでしたら斯様にお言いください、多少の考慮はしましょう。」
「それを口にした瞬間、あなたは私を見限るのでしょ?兼定。」

「さて、嵩宰の当主の座の景品に貴女を貰う。という選択をとるやもしれません。」

 松平―――厳密には、嵩宰松平家。
 元々は公家であった嵩宰家から幕府との仲持のために分離した武家としての嵩宰だ。幕末の動乱において公武合体の波の中で嵩宰の家臣としての位置に落ち着いたとはいえ、その立場は容易く嵩宰にとって代わる事ができる位置だ。

 例えるのなら徳川御三家の一つ、と言えば分かりやすいかもしれない。吉井も似たような経歴の家だ。

「不愉快ね………貴方はどうなの?定信」
「私はどちらも、自分が将器を持つとも思いませんし斯様な胃に穴が開きそうな立場になるのも御免です。」

「……つまり、一言で言えば私の夫という立場は面倒と?」
「その一言に尽きます。」

 単純明快な答えに思わず頭痛を感じる。この白き斯衛といると何となく脱力感を覚えることが多い。
 野心を微かに香らせる兼定と、野心とそれに伴う諸苦労を毛嫌いする定信。この二人は妙にバランスが取れている。

(――でも、彼らが忠誠を誓っているのはあくまで嵩宰の当主。私ではない。)

 立場の自分ではない、確固たる己自身に忠誠を誓ってくれる―――そのような臣下がいなければ自分は早々に、兼定が言ったように景品となることはわかりやす過ぎるほどに明白だ。

(―――ある意味、唯依が羨ましいわね。)

 あの侍ではなく武士で
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