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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
第四四話 背水の陣
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ケープゴースト。

 そうしたくないのに、そうできない。
 本当に、歯がゆい思いでいっぱいだ。


「ちゅう―――」
「―――あら、浮かない顔をしてるわね唯依。」

 雨宮が何かを言いかけた、だがその声を上書きする声が掛かった。
 凛とした声色の中にしなやかさを持つ……幼少の頃より聞きなじんだ声。

「きょ、恭子様!?」

 青い軍服を身にまとった妙齢の女性。崇宰恭子がそこにいた。

「なぜ……ここに?」
「斑鳩大尉にお話しがあって来たのだけど、貴女の様子も見ておこうと思って……どう?彼は優しくしてくれているかしら。」
「は、はい。」

「毎日熱々ですもんね。こっちが中られそうですよ。」
「あ、雨宮!」

 横から茶々を入れる雨宮に叫ぶ。身内に暴露されるというのはとんでもなく気恥ずかしい。

「あら、興味があるわね。」
「きょ、恭子さま!」

 顔を赤らめて必死に話の流れを止めようとする唯依。そんな彼女を微笑まし気に見つめる恭子………それだけで十分、今彼女が幸せだというのが感じ取れる。

「ふふふ冗談よ唯依、興味は確かにあるのだけどあまりしつこくしては貴女がへそを曲げてしまうもの。」
「もう……恭子様は私をいつも子ども扱いするんですから。」

 そういってむくれる従妹姪。
 ここ最近では見れなかった彼女の純真な仕草、それを取り戻させたのは誰なのか一つしか心当たりはなく、それに少しだけ嫉妬してしまう。
 それを表情に出さないように努める中、部屋の扉が開く。そして山吹の軍服を纏う斯衛軍人が入室して来た。

「恭子様、斑鳩閣下がお会いになれるようです。」
「―――分かったわ兼定。」

 唯依と同じく山吹の軍服に身を包んだ男性が声をかけてくる―――松平兼定。嵩宰家の分家である松平家の人間である。
 本来ならば赤に該当する家柄である―――戦後の家格調整で山吹に落とされた。家柄だ、篁家とは正反対だ。

「じゃあね唯依、またゆっくり話しましょう。今度は貴女の口から彼について聞かせてね」
「はい、恭子様―――その御機会、楽しみにしています。」

 そういって微笑みを返す従妹姪……その笑みに一抹の寂しさに目を細めた。
 彼女のどこか悲しみの中にある慰めのような笑みはもう無い、あるのは希望を確かに信じる心強きものだけが持つ陽性の微笑みだ。
 彼女が自分たちの庇護から巣立つ時が来たのだ。もう彼女は自分の足で歩いて行ける――もう子供扱いは出来ない。

 それが少し寂しいのだ。

「ほんと、妬けちゃうわね。」
「恭子様?」

 ぽつりと呟いた独り言を耳聡く拾った自身の警護になんでもないと返しながら恭子は退室するのだった。

 扉の外には控えていた白い斯衛軍人の姿があった―
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