第6章 流されて異界
第143話 災いなるかな……
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い。
「ただ、幾らなんでも枕元で絵本を読んで貰う、と言う訳には行かないから――」
タバサや有希の声と違い、ハルヒの声の質では眠りに誘われる可能性は低い上に、今の俺の年齢ではそれは流石に無理。
もっとも、少し心惹かれる物がない……訳でもないのだが。
ただ、それはそれ。
「完全に沈没するまでの間、オマエさんに付き合う。これなら妥当な線やな」
☆★☆★☆
意識と無意識の狭間。
覚醒の一歩手前。微睡の時間と言う物は至福のひと時と言っても過言ではないだろう。
半分覚醒した状態。意識の半分は、未だ向こう側の世界でふわふわと緩やかにたゆたっている感覚。現世のしがらみ、やらなければならないすべての事柄から解き放たれたかのような……自由を満喫している感覚。
まるで、見えない糸に雁字搦めにされた自分から逃げ出したい。そう無意識下では感じているようだな。
曖昧な……輪郭のはっきりしない意識の端っこで、皮肉に染まった笑みを浮かべる俺。ただ、それでも、この幸福の時間を少しでも長く感じて居たい。そう考えて居たのは事実であり――
――――
その瞬間、妙な重さを腹部に感じる。いや、この妙な重さと温かさを感じた事により、無意識の世界から覚醒の世界へと引き戻されたような気もするのだが……。
取り敢えず、意味不明の状態から回復する為には完全に覚醒するしかないか。かなりの未練を持つ状態ながらも、そう考え、右手を動かそうとして――
――――――ん?
――動きが異常に悪い。
被った布団がヤケに重い。どうにも寝起きの状態で、意識と肉体が上手く繋がっていないのか、身体が上手く動かせない状態らしい。
もしかすると、疲れが極限だった状態で尚、ハルヒとの取りとめのない会話や、共にテレビを見たりした事によって、予想よりも回復に時間が掛かっているのかも知れない。
所謂、金縛りに近い状態かも。そう考えて、腕を動かす事を諦める。無理に動かせば、問題なく動きそうな雰囲気だし、そもそも指先は自由に動くので金縛りだとしても、そう深刻な状況ではない。
一度強く瞳を閉じ、その事に因り、眠りに対する誘惑を断ち切る。瞼に微かな涙を感じ、室内が柔らかな電球色に包まれて居る事も同時に感じた。
そして……。
ゆっくりと瞳を開ける俺。その時、仰向けの状態で、ただただ天井を見つめるだけ……のはずであった俺の視線の先に、紅い、それなりの大きさの物体が存在している事に気付く。
簡素な……大量生産品らしい紅いニットのセーター。赤とは神の子の血と肉を表わし、本来はかなり神聖な色。確か殉教を意味する色でもあったはず。そして、その胸を飾る銀の十字架は、本来は宗教的な意味合いの濃い
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