冷たい手を
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わせもしないといけなかった。それでだった。
僕達は登下校で一緒になったりしてそこでも部活のことを話して喫茶店に入ってじっくりと打ち合わせをしたり。部活でも残って二人で練習をしたり台本のチェックをした。そうした日々を過ごしているうちにだった。
彼女がだ。こんなことを言った。
「この作品、ラ=ボエームだけれどね」
「純愛ものだよね。悲しい作品だけれど」
ヒロインは結核を患っていて最後には死んでしまう、そのことを考えるととても悲しい。けれどとても奇麗な愛の物語だ。
そのオペラに二人で向かう。僕達はその中にいた。その僕に彼女はこう言ってきた。
「深く悲しいものがあるよね」
「そうだね。奇麗だけれどね」
「とても純粋でそれでいて切なくて」
「そうしたオペラだね。けれどね」
いい作品だと思う。僕も言った。そしてだった。
その僕に少しずつだけれどそれでも。僕に言ってきた。
「ねえオペラの主人公とヒロインの」
「詩人とお針子がどうしたの?」
「私。ヒロインになりきるから」
台本を読みながらの言葉だった。彼女は台本を閉じることはなかった。
「だから貴方も。主役にね」
「なりきるよ。そしてこの僕達のはじめての主役とヒロインの舞台を」
「成功させましょう」
僕達は二人で誓い合ってそのうえでだった。舞台に打ち込んでいった。第一幕から最後の第四幕、四幕構成のこのオペラの隅から隅まで、音楽の音符の一つまで一緒に勉強して演じて歌っていった。リハーサルはもう本番さながらといった状況になっていた。
僕達は二人で恋人同士になりきっていた。そうして舞台の初日を前にした。
最後のリハーサルが終わって家に帰るその時。僕に彼女が声をかけてきた。
「ちょっと。いいかしら」
「ちょっとって?」
「あのね。私達部活でいつも一緒だったけれど」
何処かおずおずとした感じで僕に言いながらその横に来た。そのうえで僕にさらに言ってくる。
「何ていうか。一緒にいて」
「何かあったの?」
いつものどちらかというとしっかりとした感じがなくておずおずとして慎重に言葉を選んでいる感じの彼女に違和感を感じて僕は問い返した。
「部活の時と全然違うけれど」
「一緒に帰らない?」
必死さが含まれた言葉が。ここで出て来た。
「いいかしら」
「別にいいけれど」
「よかった。実は話したいことがあってね」
やっぱりだった。ここでも何処か必死さのある言葉だった。
「それで一緒に帰りたかったのよ」
「そうだったんだ」
「それでね」
一緒に帰ることになったすぐにだった。彼女はまた僕に言ってきた。
「私、ずっと一緒にいて。それでずっと二人でいてね」
「最近
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