第八話 南西諸島攻略作戦(前編)
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いる。五航戦としての矜持もあるわ。そして大切な仲間がいることも知っている。それもみんな前世の記憶のおかげなのね。でも紀伊・・・・。」
瑞鶴はすっと手を差し出した。
「あなたが何者か知らないし、あなたが何者なのかを調べるのに、私たちは役に立てそうにないけれど・・・でも、私たちはずっとあなたの親友のつもりだよ。それじゃ駄目かな。」
紀伊は口元に握ったこぶしを持っていき、ぎゅっと目をつぶった。
「わかっています・・・・。でも、けれど・・・・・!」
瑞鶴は差し出した手をぎこちなく引っ込めた。それを見ていた翔鶴がすっと進み出て紀伊の左手を取った。
「・・・・・!?」
「紀伊さん。」
翔鶴が話し出した。
「確かに私たちは前世の記憶をもって生まれてきました。でも、だからといって私たちは前世の記憶に縛られては駄目だと思うんです。少なくとも私は完全に縛られていたくはないんです。もちろん瑞鶴や榛名さんたちとの絆はとても大切です。そうではなくて・・・・私たちがこうして人の姿で生まれてきたわけ・・・・それは新たに新生した艦娘として、前世にとらわれず、縛られず、歩いていきなさいという誰かの意志を感じるのです。」
ひいやりとしたさわやかな夜風が4人のそばを駆け抜けていった。紀伊はこぶしを離し、翔鶴の言葉をじっと聞いていた。新しく新生する。その意味では自分と同じゼロから歩み始めるということだった。過去の記憶は過去の記憶に過ぎない。それは自分の生い立ちをある程度は縛るものなのかもしれないが、これから自分が歩いていく道を拘束するものではなかったのだ。
「思い出は・・・・ここでこれから作ればいいと思います。うまく言えませんけれど・・・その中で自分が誰なのか、その役割を形作れるのではないでしょうか。大丈夫です。私も瑞鶴も榛名さんも、そして紀伊さんも、きっと・・・・。」
紀伊は翔鶴に手を取られるままだったが、やがて強くうなずくと、笑顔を浮かべた。
「瑞鶴さん、榛名さん、翔鶴さん、本当に私、今幸せです!!」
3人の手をぎゅっと握りしめると、失礼します、と一礼し、紀伊は駆け去っていきかけ、不意に後ろを向いた。とても綺麗な笑顔と共に。
「私もコンサートに参加させていただいてよろしいですか?」
3人とも大きくうなずいて見せた。
紀伊は深々と一礼し、失礼します、と繰り返すと背中を見せて行ってしまった。それを見送っていた瑞鶴が振り返った。少しだけ寂しそうな顔をしていた。
「翔鶴姉には負けたわ。」
「榛名も感激しました。とても翔鶴さんのようには話せません。」
「いいえ、瑞鶴の気持ちも榛名さんの気持ちも、そしてほかの皆さんの励ましの思いは、紀伊さんにはしっかりと届いているはずです。」
翔鶴は紀伊の後姿を温かいまなざしで見守っていた。
「だから、私は信じています。紀伊さん
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