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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百話 作戦会議
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遠征軍総司令官がイゼルローン要塞司令官を兼任する事になった。
■ 宇宙暦796年7月 4日 自由惑星同盟統合作戦本部 シドニー・シトレ
「どうも、やはり辞めておくべきだったといいたげだな」
私の問いにヤン中将は答えなかった。しかし彼の表情は言葉より雄弁に心の内を語っている。
会議終了後、帰ろうとする彼を引きとめた。どうしても彼と話すことがある。
「イゼルローン要塞を手に入れれば戦火は遠のくと考えていたのだが、甘かったか」
「ヤン中将、君は今回の出兵はヴァレンシュタイン司令長官に乗せられている、そう思うのだな」
「ええ、そうです」
「酷い戦いになりそうだ」
「……」
「ヤン、必ず生きて帰ってきてくれ」
「!」
驚いたように私を見る彼に私は言葉を続けた。
「ヴァレンシュタイン司令長官に対抗できるのは君しかいない。少なくとも私には君以外思いつかない」
「私など……」
「ヤン。私はこの遠征が終われば辞職せざるをえん。頼む、軍人としての私の遺言だと思って聞いてくれ。君にしか頼めないのだ」
「本部長……」
「君には軍の最高地位に就いて貰いたいと思っている。そうなれば彼に対抗するだけの権限をもつことが出来る。今のままでは駄目だ。権限が無い」
「……」
「私は君が望まない事を言う。出世してくれ、そして軍の最高地位についてこの国を守ってくれ。帝国から、そして軍内部の馬鹿者達から」
「……本部長閣下は何時も私に重すぎる課題をお与えになります」
「だが、君はいつもそれに応えてくれた」
「それは……しかし……」
言いかけて彼は一度口をつぐんだ。そしてまた口を開いた。
「私は自分の出来る範囲でなにか仕事をしたら、後はのんびり気楽に暮らしたいんです。そう思うのは怠け根性なんでしょうか」
「そうだ、怠け根性だ」
絶句した彼を見て思わず笑ってしまった。正直な男だ。正直すぎると言っていい。しかし同盟の現状はこの男のささやかな望みを許さない状況になっている。そのことはこの男も分っているだろう。
これから、この男は辛い立場になるだろう。これまでは私がこの男を庇護してきた。もちろん私も彼の才能を利用した。ギブ・アンド・テイクの関係で帝国と戦ってきた。
しかし、これからは一人で多くの決断をしなくてはならないだろう。いや、そういう立場に立ってもらわなければならない。すまんな、ヤン。君を此処まで引っ張ってしまったのは私だ。
しかし、私は君がいてくれるから安心してやめることが出来る。すまん……。
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