3部分:第一幕その三
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第一幕その三
カヴァラドゥッシ「何があっても生き残るから。その時に」
伯爵 「そうだ。ではマリオ、共にトカイを飲むことを誓って」
カヴァラドゥッシ「今はさよならだね」
伯爵 「それではな。また」
二人は別れの挨拶を交あわせる。伯爵は左手から姿を消してカヴァラドゥッシは一人になってしまう。彼は一人になるとまずは籠の中を覗いた。
カヴァラドゥッシ「やれやれ、またこんなに一杯持って来て」
その籠の中を見て困った顔になる。
カヴァラドゥッシ「食べられないよ。まあエウゼッペにでもあげようかな」
そう言うと絵に取り掛かる。台に昇って布を取る。茶色の髪に青い目の美女の絵である。それを描いていると右手の礼拝堂からアンジェロッティが姿を現わしてくる。
アンジェロッティ「もう誰もいないな」
そっと出て来ながら言う。
アンジェロッティ「なら。今のうちに」
カヴァラドゥッシ「いや、待ってくれ」
ここで台の上にいるカヴァラドゥッシに声をかけられ顔と身体を凍らせる。
カヴァラドゥッシ「アンジェロッティ、君か」
アンジェロッティ「カヴァラドゥッシか」
二人は言葉を交あわせる。カヴァラドゥッシは下に降りて彼と相対する。
カヴァラドゥッシ「スカルピアに捕まったと聞いていたが」
アンジェロッティ「何とか逃げてきたんだ。妹の手引きでね」
カヴァラドゥッシ「そうか、それでそんな格好をしていたのか」
アンジェロッティ「サン=タンジェロ城に今まで入れられていた。もう少しで殺されるところだった」
カヴァラドゥッシ「ああ、そういえばさっき大砲が鳴ったな」
アンジェロッティ「僕の脱走を知らせる合図だ。おそらくここにも来るだろう」
カヴァラドゥッシ「(その言葉を聞いて真剣な顔になり)じゃあ一刻の猶予もないね」
アンジェロッティ「ああ、早く逃げなければならない。僕を狙っているのはスカルピアだけではないからな」
カヴァラドゥッシ「あの冷血漢だけではない?」
アンジェロッティ「エマ=ハミルトンにも狙われているんだ。殺されそうになったのは彼女の差し金さ。彼女がナポリの女王に頼み込んだ結果なんだ」
カヴァラドゥッシ「ちょっと待ってくれ」
カヴァラドゥッシは話が見えずその目を顰めさせる。
カヴァラドゥッシ「エマ=ハミルトンというとナポリのイギリス大使の奥さんだったな」
アンジェロッティ「そうさ」
カヴァラドゥッシ「類稀な美人と聞いているけれどどうして君が彼女を?」
アンジェロッティ「それは僕が彼女の過去を知っているからなんだ。それでね」
カヴァラドゥッシ「彼女の過去・・・・・・。何でも貧しい出自らしいが」
アンジェロッティ「子守女に酒場の女、娼婦もやっていた。僕も客だったことがある」
カヴァラドゥッシ「それで
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