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魔王に直々に滅ぼされた彼女はゾンビ化して世界を救うそうです
第2話『キミのなまえ』
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首を傾げる少女。 ついさっきに出会った相手に対して警戒心薄すぎやしないだろうか。若干心配になってくる。気を取り直して少女を手招きし、目的の場所まで誘導する。
「……ぁ、……」
「最低限生活用具は一式揃ってる。前に俺が使ってたとこで悪いけど、これでもマシにしてあるんだ。我慢してくれ」
紹介したのは、普段遠征用に使っている洞窟内に設置したキャンプ。別に誰かが使っている訳でもなし、人もあまり近付かない。人知れず暮らす分には問題無いだろう。他にある多少の問題は──
「害獣避けの結界は……よし、ちゃんと機能してるな」
入り口に刻んだ術式が遺憾無く効果を発揮し、獣のみを寄せ付けない壁を展開している。心配は無い。保護環境とするには十分だろう。
紅眼の少女は目を見開き、キャンプを見回している。やがて小さく歩み始めたかと思うと簡素なベッドの側にしゃがみ込み、ベッドを上から軽く押す。力が反発して手を押し返し、柔らかな布が少女の小さな手を包む。
少女は嬉し混じりに驚きの表情を浮かべ、そのままベッドに横になった。
心地良さそうに枕を抱き締め、頬を緩ませる。死徒なのだから当たり前と言えば当たり前だが、今までマトモな環境で寝た事が無かったのだろう。その幸せそうな笑みは本当に生きた人間の様で−−
「……ぁぃ……ぁ、ぉ……!」
『ありがとう』、と言いたかったのだろう。
掠れた音しか出ない喉から出来る限りの言葉を並べ、彼女は柔らかな笑顔を見せた。ジークが微笑み返して頭を撫でてやると、心地良さそうに手へ頭を擦り付けてくる。
これで、一先ずは大丈夫だろう。討伐とは言われたが、それはあの森の開拓の障害となるから。無害ならば、他の土地へ逃がせば問題ない。
取り敢えずは報告か−−
「……ぁ、ぁ……ぇ」
「……ん?」
街へ戻ろうと踵を返した所で、服の裾を引っ張られる。見れば、少女がしっかりと裾は掴んだまま、慌てて辺りを見回していた。やがて一つの小石を拾い上げるとジークの手を引いて小走りに洞窟の壁へと向かっていき、石で壁に文字を書き始める。
−−Wなまえ は?W−−
「ん?あー、俺の?」
こくり、と頷く。
そうか、そういえばまだ伝えていなかった。声を出せないなら名を呼ぶ事は無いだろうが、知っておいてもらった方がなにかと便利だろう。
「ジーク。ジーク・スカーレッド。よろしくな」
「……ぃ、い……ぅ。……い……ぅ」
何度か名を呼ぼうとしたのだろうが、やはり声は掠れて出ない。彼女は不満そうに口を尖らせたが、やがて表情を笑顔に変えると、精一杯の声を絞り出して−−
「
ぁ、あ……ぇ
(
またね
)
、
ぃ……ぅ
(
ジーク
)
」
手を振りながら、そう言った。
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