暁 〜小説投稿サイト〜
満願成呪の奇夜
第12夜 共闘
[1/5]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 
 『樹』の呪法は、他の4つの呪法と比べて非常に特異だ。
 呪獣との戦いにおいて直接的な攻撃力を持たないこの『樹』という属性は、夜の戦いでは圧倒的に強い『熱』を弱点としている。しかし、面白い事にその利用価値は昼限定で『熱』の価値と逆転するという不思議な性質を持っている。

 まず、『樹』の呪法は名前の通り植物に干渉することが出来る。これは対象植物の生死に関わらない為、加工された木材にも適用される。これらは呪獣との戦いではほとんど役に立たないが、薪の精製、製造業、建築業等の人間の文化的な生活を支える機能としては非常に大きなウェイトを占めていた。
 つまり、従来の固定的な物質の構造を呪いによって変異させ、自分の都合のいい道具に作り替えるのがこの『樹』という属性の真骨頂。面白い事に、攻撃力が最も低い『樹』の属性には他のどの属性より禁呪となった術が多いと言われている。
 更に、『樹』は植物由来の物質だけでなく動物由来の物質にもある程度干渉が出来るため、その応用性は無限大と言ってもいい。犯罪者等を取り締まる呪法師にはこの『樹』を得意とする人間が多く、民家やロープ等を自在に変異させて相手を追い詰める様は手品のようで圧巻だ。

 そして、その手品師――ガルド・ルドルクの戦い方も、それに沿うように技巧派だった。。

 ドレッド達と共に境の砦へと戻る途中で5体の呪獣が同時に現れた際、彼らのチームで真っ先に前へ出たガルドは、低い声で呪言を口にする。

「奴から脚を奪え……『藁蛇(セルピエンテ・セカ)』」

 異様に腰を落とした低い体勢から、地面をすくい上げるようにアンダースローで縄が投擲される。縄は彼が口にした蛇のようにうねりながら醜い呪獣の脚に絡みつき、一瞬でその機動力を奪う。直後、もう片方の手に握った拳銃が火を噴く。
 放たれた銃弾は走行中で激しく動いている筈の呪獣の膝に吸い込まれるように命中し、立て続けに3体の呪獣が足をもがれて転倒する。「撃鉄(インパクト・ヒエロ)」という『鉄』の呪法の基礎中の基礎だが、それを立て続けに命中させて脚をもぎ取るには純粋な拳銃の技量が必要だ。

 転倒させられた呪獣の体からは、微かに湯気のような煙が上がっている。体が光に冒されているのだ。呪獣は基本的に光を避けるが、上位種の呪獣が出現し始めてからはリスクを承知で短期決戦に挑んでくる呪獣が増加したという。
 命懸けの攻撃であるが故に、自分の身体が崩壊する直前まで呪獣は死に物狂いで殺しに来る。殺してしまえば後は光の外に広がる陰鬱な空間が体を癒してくれる。故に、闇に逃さぬよう動きを封じるのは自分優位の戦いに持ち込む方法としては適切だ。

 しかし、華麗な銃撃を見せる彼の頭上に影が迫る。足を縛られて転倒した呪獣の振りまわした腕が彼の進行方向から暴力の塊として接
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ