ここが分かれ道だ
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画面に映るメッセージを凝視した。
『sai』とは一年前に現れた無敗の棋士だった。
たまに塔矢門下の研究会でも取り上げられたこともあるが、誰なのだろうかと話題にしても誰も分からず首を傾げるばかりだった。
しかし、棋譜をみれば『現代に蘇った秀策』と言われるのも納得できる素晴らしさだった。
半年くらい前までは棋院にもひっきりなしに『sai』は誰かと大騒ぎだったが、最近は落ち着いてきていた。落ち着いたというよりも探せるだけ探しきって打ち手がないというのが正しいが。
そんな『sai』が目の前に居る。
メッセージやチャットはほぼしないという噂だったが、今目の前には『sai』からのメッセージがある。
「saiが進藤の師匠?君はsaiと知り合いなのか?」
当然の疑問をぶつけたが、ヒカルはそれを否定した。
「俺も『sai』がどこにいるのかも知らないし、会ったこともない・・・会いたいけどさ」
ヒカルの寂しげな表情に口をつぐみかけたがここで訊かなければ次に聞くのは難しいだろう。
「saiに会いたいとは言わなかったのかい?それに会ってないのにどうやって弟子になったんだ?」
それに、へへっと力なくヒカルは笑って床に座ってsaiとの出会いを話した。
『sai』と弟子になったきっかけはヒカルが『囲碁を教えてほしい』とメッセージを送ったのがきっかけだという。
ヒカルもダメ元でもと送ったらなんと『わかりました。いいですよ』と返事が来た。
そこからずっと『sai』とヒカルはひそかに師弟の関係を結んでいたという。
打っているのはプライベート碁という打っている両者しか見ることの出来ない機能を使っているという。
会いたいとメッセージを送ったこともあるが、それには『できない』としか帰ってこなかったという。追求しようにもどこの誰かも分からず、しつこくすればそのまま消えてしまうのではという懸念もあって断念したそうだ。
あれだけの打ち手と打てなくなるとなれば、慎重になるのも頷ける。
しかし、その秘密をあっさり自分に話していいのだろうか。
「僕に話してもよかったのか?」
それにヒカルは「うん」と真面目な顔で頷く。
「saiにも塔矢に話してもいいかちゃんと確認とってる。それにお前には話しておきたかったんだ。それにお前なら口が堅そうだしな」
その信頼はどこからくるのか、人を簡単に信用し過ぎではないかと色々心配になったが、彼から与えられた信頼を無下にすることは出来ないのは確かだ
「分かった。誰にも言わないし、僕もsaiについての追及はしない」
その言葉に、ヒカルもほっとしたのか「ありがとう」と笑みをこぼした。
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